井上尚弥に続け。今週は伊藤雅雪(横浜光)が、タイトルをつかんだ思い出の地、アメリカ・フロリダ州キシミーで2度目の防衛戦に臨む。対戦するのは元オリンピアンの長身サウスポー、ジャメル・ヘリング(アメリカ)。油断ならない技巧の持ち主だ。伊藤はどんな形でこの難敵を切り崩すのか。中国では元世界チャンピオンふたりが世界一奪還をかけてリングに上る。久保隼(真正)と木村翔(青木)だ。番狂わせでアメリカからタイトルを持ち帰った地元王者、一方は不敗の強打自慢が両者の相手。こちらもAA級の注目である。

写真上=伊藤雅雪
BBM

5月25日/オセオラ・ヘリテージパーク(アメリカ・フロリダ州キシミー)

◆伊藤はその戦法がカギになる?

★WBO世界スーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦
伊藤雅雪(横浜光)対ジャメル・ヘリング(アメリカ)

伊藤:28歳/27戦25勝(13KO)1敗1分
ヘリング:33歳/21戦19勝(10KO)2敗
※26日午前11時より、WOWOWで生中継

 実のところ、取り巻く条件はヘリングを奮い立たせるものばかり。この2日後、5月最終月曜日はアメリカでは戦没将兵追悼記念日(メモリアルデー)である。10年間、アメリカ海兵隊に所属し、その間、イラクに2度まで派遣されているヘリングには大事な日だ。さらに試合当日は、乳幼児突然死症候群で亡くなった娘アリヤナーが生きていればちょうど10歳の誕生日になる。だから、ヘリングが全力で戦いに立ち向かってくるのは間違いない。

 だが、リングの掟は力だけにある。ごく少数の例外を除けば、勝者の拳だけが新しい人生を切り開くことができる。アメリカのリングでスターダムへの道を歩こうとする伊藤にとっては、ヘリングの思いをもすっぱりと切り裂いていかねばならない。

 そんなこのカード、伊藤にとってヘリングはやりやすい相手とは言いにくい。なんと言っても178センチの長身で、しかもサウスポーときている。意外にクロスレンジの展開を仕掛けてくるとはいえ、パンチの角度も、コンビの組み立ても長身ゆえの多彩さがある。伊藤も安易に同じテンポでやり合っていれば、相手のペースの飲み込まれてしまうかもしれない。

 伊藤はやはりメリハリのある攻防で立ち向かいたい。タイミングを計って好打を決め、間を置かず自分の形でインサイドをつきたい。ヘリングにはサウスポーの力戦型、デニス・シャフィコフ(ロシア)に追い立てられ、ストップ負けした過去もある。力のある連打でプレスをかけることができたなら、伊藤が圧勝する可能性は強い。要は早い段階で流れを自分のほうに持ってくる。そこが勝敗の分かれ道だ。

◆エリート相手に江藤光喜の強打は通用するか

画像: 江藤光喜 BBM

江藤光喜
BBM

◆WBO世界スーパーフライ級挑戦者決定戦10回戦
ハビエル・シントロン(プエルトリコ)対江藤光喜(白井・具志堅スポーツ)

シントロン:24歳/10戦10勝(5KO)
江藤:31歳/29戦24勝(19KO)4敗1分

 シントロンはプエルトリコでは史上初の五輪連続出場を果たすなどエリート中のエリート。トップランク・プロモーションズと契約してプロ入り後は、慎重なマッチメイクで大事に育てられてきた。暫定とは言え、世界チャンピオンの肩書きを抱いたこともある江藤との対戦は、シントロンにとっては大きなステップアップをかけた戦いにもなる。

画像: ハビエル・シントロン(右) Getty Images

ハビエル・シントロン(右)
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 24歳のプエルトリカンは間違いなく軽量級屈指のホープだが、パンチの凄みという点ではいまひとつ。粗さはあっても、同時に破壊力もある江藤は大胆に攻め抜きたい。不利の予想は仕方ないが、キャリアがない分、シントロンを慌てさせれば、強打を決められる展開になるかもしれない。

◆2階級制覇のペドラサが再起戦

画像: ホセ・ペドラサ Getty Images

ホセ・ペドラサ
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 元スーパーフェザー、ライト級世界チャンピオンのホセ・ペドラサ(プエルトリコ/30歳/25勝12KO2敗)がワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に敗れて以来の再起戦のリングを迎える。自身の持っていたWBO、ロマチェンコのWBAスーパーの統一戦は、天下無双のテクニシャン相手に食い下がって評価を上げた。それでも負けは負け。再びチャンスを手にするためには、ここはきちんと勝ち抜きたい。

 対戦するアントニオ・ロサダ(メキシコ/29歳/40勝34KO2敗1分)は不敗のホープとして頭角を現したものの、ひところ落ち込んでいた。父はメキシコ北部を本拠にするボクシングプロモーターという環境が、慌てず騒がずとも再浮上を促したか、昨年、不敗のフェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)をストップに追い込んだ。

 安定した技術の持ち主、ペドラサが当然、優位とみられるカードも、大事なのは戦いの内容だ。

 このほかにもさまざまなホープ群がこのイベントに参戦するが、ミドル級のエドガー・バーレンガ(アメリカ/22歳/10戦10勝10KO)に注目しておきたい。なにしろここまでの10戦すべてを最初の3分以内で終わらせている。プロ入り当初はイベンダー・ホリフィールドが主催するリアルディール・プロモーション専属だったが、この4月にトップランクと契約して、新しい一歩を踏み出した。やや動きが重いのは気になるが、その一発は魅力的だ。

5月26日/中国・江西省撫州市

◆どこまでも勇敢な木村の流儀で、不敗王者を圧倒せよ

画像: 木村翔 BBM

木村翔
BBM

★WBA世界ライトフライ級タイトルマッチ12回戦
カルロス・カニサレス(ベネズエラ)対木村翔(青木)

カニサレス:26歳/22戦21勝(17KO)1分
木村:30歳/22戦18勝(11KO)2敗2分
※26日午後8時ごろよりWOWOWメンバーズオンデマンドでライブ中継

 カニサレスの強打は確かに要警戒である。スタミナもある。勇気もある。日本で小西伶弥(真正)から痛烈なダウンを奪ってタイトルを奪ったのは昨年3月。その後、AIBAプロの世界チャンピオンだったルー・ビン(中国)を最終回でストップと勢いもある。

画像: カルロス・カニサレス(右) Getty Images

カルロス・カニサレス(右)
Getty Images

 ただ、攻めの厚みを比べると、木村のほうが数段上回っているように見える。抜群のパワーヒッターではないものの、もう一歩、さらに一歩とぐいぐいと追い詰めていく。いかなる打撃戦になっても決して音を上げない心のタフネスが、多くのファンの共感も呼ぶし、対戦相手にとっても脅威になる。連打を連ね、さらに力強いボディへと展開する。カニサレスも勝負が終盤にもつれ込んでもへこたれないしぶとさがあるが、衰えを知らない木村のアタックにどこまで耐えられるか。

 もし、木村に不安があるとすれば、3年ぶりに戦うライトフライ級というウェイトだ。「もともとライトフライ級だし、まったく問題はない」と本人は言うが、軽量級での約2キロ(フライ級リミットは50.8キロ、ライトフライ級は48.9キロ)は大きい。かつて慣れ親しんだとしても、これだけはリングに上がってみなければ分からない。

 それでなくてもタフな打ち合いが予想される。ならば、より『腹を空かせた』ほうが勝つ。むろん、減量という意味ではない。野心のかさについてである。

「ビッグマネーマッチを戦いたい。もっと輝くスターになりたい」

 そんな木村なら、ここで立ち止まるわけにはいかない。

◆久保は13ヵ月のブランクを克服できるか

画像: 久保隼 BBM

久保隼
BBM

★WBA世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
シュー・ツァン(中国)対久保隼(真正)

シュー:25歳/18戦16勝(2KO)2敗
久保:29歳/14戦13勝(9KO)1敗

 ともに長身だ。地元のチャンピオンは175センチ、元WBA世界スーパーバンタム級チャンピオンの挑戦者、久保が176センチ。じっくりと間合いをはかって、戦いをコントロールする。右と左の違いはあるが、ほぼ似かよったタイプの対決となる。

 より攻撃的なのは久保で、展開によっては中間距離での打ち合いに勇んで乗り込むこともある。だからこそ心配になるのは、1年以上もブランクがあること。敵地での戦いに気がはやって無造作に打ち合うと、より長い距離で戦いたがるシューのペースにはまってしまう。なおかつ、アメリカでヘスス・ロハス(プエルトリコ)を判定で破ったシューは今が伸び盛りときている。

画像: シュー・ツァン Getty Images

シュー・ツァン
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 久保としては焦らず、騒がず、じっくりと自分のペースに引きずり込みたい。シューのほうに焦りを作る戦い方を心がけたい。そのためにもサウスポーの優位をフルに活かし、ジャブからワンツーで先行していくこと。そうすれば2階級制覇も視野に入ってくる。

まだまだあるぞ!注目カード

◆主役降板でも魅力的なDAZNのキャスティング

 注目の統一世界クルーザー級チャンピオン、オレクサンダー・ウシク(ウクライナ)のヘビー級デビュー戦は流れたが、25日、アメリカ・メリーランド州オクソンヒルのMGMナショナルハーバーからDAZNで中継(現地)されるカードは魅力的だ。

画像: デビン・ヘイニー Getty Images

デビン・ヘイニー
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 まずは次世代スター候補の筆頭格に上げられているデビン・ヘイニー(アメリカ/20歳/21戦21勝13KO)のDAZNデビュー戦。決してパンチャーではないが、シャープな攻防感覚が光るヘイニーは近い将来、トップ級との対戦が期待されている。ここ3戦、豪腕メイソン・メナード(アメリカ)、長谷川穂積と世界王座を争ったこともあるファン・カルロス・ブルゴス(メキシコ)、不敗の技巧派、ゾリサニ・ヌドンゲニ(南アフリカ)とタフな相手とばかりと戦っているが、今度もかなり手強い。アントニオ・モラン(メキシコ/26歳/24勝17KO3敗)は2階級制覇王者ホセ・ペドラサ(プエルトリコ)を苦しめたタフガイだ(僅差判定負け)。ヘイニーの素質にそれだけの信頼を置いているからこそのマッチメイクだが、“明日のスター”ならこんな小山はへっちゃらで乗り越えていってほしい。

 WBA世界女子スーパーライト級チャンピオンのジェシカ・マッキャスキル(アメリカ/34歳/6勝3KO2敗)が初防衛戦を行う。ホームレスになったこともある過酷な少女時代から這い上がり、今は投資銀行で働く。24歳でボクシングを始めた。30歳でプロに転向。世界初挑戦でケイティ・テイラー(アイルランド)に善戦したことでDAZNボクシングのボス、エディ・ハーンに見そめられた。次戦で念願の世界タイトルを手にして、この日を迎える。挑戦者のアナイ・エステル・サンチェス(アルゼンチン/27歳/19勝11KO3敗)はテイラーに完敗しているだけに、マッキャスキルもスキのない勝ち方をしたい。

画像: フィリップ・フルゴビッチ(右) Getty Images

フィリップ・フルゴビッチ(右)
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 同じカードに組まれたふたつのヘビー級10回戦も楽しみだ。クルーザー級から再びヘビー級に戻ってきたマイケル・ハンター(アメリカ/30歳/16勝11KO1敗)、リオ五輪スーパーヘビー級銅メダリスト、フィリップ・フルゴビッチ(クロアチア/26歳/7戦7勝5KO)が、それぞれWBAとWBCのインターナショナル・タイトルマッチに臨む。とくにこれがアメリカ・デビュー戦となるフルゴビッチのパワーパンチは見もの。

 このほか、リオ五輪ウェルター級金メダリスト、ダニヤル・エレウシノフ(カザフスタン/28歳/6戦6勝3KO=ウェルター級)、4回戦にもアマチュア213勝4敗のロレンゾ・シンプソン(アメリカ/19歳/3戦3勝2KO=スーパーミドル級)と、見どころ満載の夜になりそう。

◆技巧派同士のシブいペース争い

 FOXスポーツ1で中継されるアメリカ・ミシシッピ州ビロクシ、ビューリベイジ・リゾートのPBCイベントは、世界タイトルの華やかさ、若手スター候補こそ不在だが、なかなかシブい。

画像: オースティン・トラウト(右) Getty Images

オースティン・トラウト(右)
Getty Images

 メインイベントはオースティン・トラウト(アメリカ/33歳/31勝17KO5敗)対テレル・グーシャ(アメリカ/31歳/21勝10KO1敗)のスーパーウェルター級10回戦だ。

 元WBAチャンピオンのサウスポー、トラウトは駆け引きに長けたベテラン。ここ4年で1勝3敗と戦績の上では振るわないが、昨年にはジャーメル・チャーロ(アメリカ)に2度のダウンを食いながら、粘りに粘ってギリギリの判定勝負に持ち込んでいる。元オリンピアンのグーシャはエリスランディ・ララ(キューバ)に完敗したものの、再起戦では手強いフレディ・エルナンデス(アメリカ)を初回KOで破った。線の細さが脱けきらないのが難だが、技術は確かだ。 ややスピードに欠けるようになってきたトラウトにとっては厳しい戦いになるが、熟練の技巧でどこまでしのげるか。

 セミファイナルではニューヨークのアマチュアスターだったスーパーウェルター級のコールデール・ブッカー(アメリカ/28歳/14戦14勝7KO)が、ベテラン・スラッガー、ワレ・オモトソ(ナイジェリア=オーストラリア/34歳/27勝21KO3敗)とテストマッチ。さらにライトヘビー級のパワーパンチャー、アーメド・エルビアリ(エジプト/28歳/18勝15KO1敗)も出場する。

 前座はローカルスターのオーディションとも言えるカードがずらり。アフリカ・ヘビー級の実力者エフェドール・アポチ(ナイジェリア/31歳/7戦7勝7KO)。アマチュア時代はスーパーヘビー級のナショナル代表だったブランドン・グラントン(アメリカ/27歳/8戦8勝7KO=ライトヘビー級)らとともに、1年2ヵ月ぶりにカムバックする名チャンピオンの2世、アントニオ・ターバー・ジュニア(アメリカ/31歳/5戦5勝4KO=ミドル級)らの名前が並んでいる。

文◎宮崎正博

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