WBO女子世界スーパーフライ級王者・吉田実代(31歳=EBISU K's BOX)が1日、3-0判定初防衛から一夜明け、所属ジムであらためて記者会見を行った。

上写真=加山会長、実衣菜ちゃんとともに会見に臨んだ

想いが強すぎてしまった

 彼女の前に会見した田中恒成同様、吉田の顔にも、傷ひとつなし。だが、その事実自体すら「パンチはもらっていないけれど、私もそれだけ当てられない距離にいたということ」と、反省材料になってしまう。さすがに、昨日の勝利直後のように、涙を流すことはしなかったが、98対91、97対92、99対90の大差判定で勝ったチャンピオンの会見とは到底思えなかった。

 日本女子初の、大晦日開催世界タイトルマッチ。注目度の高さ、重みを、彼女はとてつもなく大きく膨らませていたのだ。
「すごく緊張して、プレッシャーがあった。あまり考えないようにしていたけれど。女子で初めてこういうチャンスをいただいて、気負わないようにしていた」 
 けれども、そう考えれば考えるほど、見えない重圧は重くのしかかった。
「いいところを見せたい、倒したいという思いにつながって、強引に入ったりしてしまった……」。

 挑戦者シー・リーピン(中国)は、長身の上に、映像等の事前情報がほとんどなく、リングで対峙して、自身のセンサーで得るものを信じるしかなかった。距離とタイミングが計りづらかったのは、容易に想像がつく。
「負けたら年を越せないと思った。だから、年を越せてよかった。ああ、お正月だって……」。そう言って、同席した愛娘・実衣菜ちゃんを抱きしめた。

会見中、ぐずる実衣菜ちゃんを、優しくもしっかりと諭す姿も

前を向いていくしかない

 この試合に臨むにあたって、彼女をバックアップする体制は、ものすごい陣容となった。加山利治会長の理解も手伝って、元WBA世界スーパーフェザー級チャンピオン内山高志さん、セコンドにも就いた元日本バンタム級王者で、出身地・鹿児島の先輩、益田健太郎さん、自衛隊体育学校の元オリンピアン、須佐勝明コーチが、それぞれアドバイスを送り続けた。さらには、尊敬するWBAフライ級王者の“レジェンド”藤岡奈穂子(竹原慎二&畑山隆則)も以前から引き続き、スパーリング相手を買って出た。

“大役”を、インパクトあるかたちで終えて、お世話になった方々に恩返しをしたい。そういう想いも背負っていただろうから、悔しさはそうやすやすとは消えなかった。

 けれども、終わったことをいつまでも引きずっていてもしかたない。すべての想いをふたたび背負い込んで、前を向いていくしかない。陽はまた昇る。朝は必ずやってくるのだから。

「試合中に、学んだことがまた多かった。次の試合にそれらを生かすことができるのが収穫。会長たちの指示を受けながら、いろいろと試しながら試合を進められたことは経験値となりました」

 何をどうしたらいいか、明確になった。練習でできていることを、どうやって試合で出すかという練習をする。そして、見ている人がおもしろいと思える試合をできるように、もっと努力をしていきたい──。向上心の高さは、天井知らず。技術を学ぶ容量は、まるで乾いたスポンジのようだ。あとは、加山会長が指摘する「気持ちのコントロール」。

小さな幸せを守ることが、大きな原動力

最近、実衣菜ちゃんは「ボクシングをしたい」と言っているそう。「親子現役を目指しましょうか」と笑う吉田だが、決して不可能ではない!

 2020年は、ベルトを守ることと同時に、挑戦することも視野に入れている。
「女子ボクシングが盛んで人気のあるメキシコの選手などとも対戦したい。チャンスがあれば、海外でも戦いたい」

 世界チャンピオンとして、自身をレベルアップすると同時に、敢えて茨の道を選んで、その“価値”を高めようとする。吉田には、決して恵まれていない、日本女子ボクシングの状況を打破する絵画も描けているようだ。

“強い女性”、“カッコいいママ”。すべてはそこが出発点。壮大な目標を胸にしまい込んだ吉田は、実衣菜ちゃんとともに「味噌ラーメン」を食べに行き、『アナと雪の女王2』鑑賞に出かけた。
 娘のたってのリクエスト。そんな小さな幸せを守ることこそが、最大の原動力なのだ。

文&写真_本間 暁

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