12月4日の日本選手権女子10000mで30分20秒44の日本新記録を樹立。東京五輪代表に内定した新谷仁美(積水化学)が25日、東京・世田谷区立総合運動場 陸上競技場にて公開練習を行った。練習後、1時間30分に渡る合同記者会見では、常に真摯に競技に向き合う新谷らしさにあふれる言葉が紡ぎ出された。
「変化はありません」(コロナ禍の一年、練習時間や質、量に変化はあったかと問われて) 「不器用なのか器用なのかは分かりませんが、私はどんな状況であっても力を出し切ってしまう部分がある。いい意味で言うと、全力で取り組んでしまうんですね。ですから、コロナ禍の今年でも取り組みに変化はありませんでした。
量と質に関しては、これまで頑なに長い距離を拒んできました。ただ、横田(真人)コーチ、積水化学と話し合い、これから私がどうあるべきかを考えたときに、嫌だといっている場合じゃないと。必要だと思うようになってからは、量、質ともに増えたと思います。
内容的なものはこれまでやってきたことより、より隙のないものになったと思います。それは横田コーチが提示するもので、私は頼っているので、今後も練習メニュー全般を任せていくことに変わりはありません。だから、結果が悪かったら、私のせいではありません。横田コーチの責任だと思ってください(笑)」
勝負の場と位置付ける東京五輪に向けて、師事する横田コーチとともに進んでいく(写真/椛本結城)
「今後、私がやるべきことは、結果を残すことではない」(現役引退を経て、復帰後に感じた自身の意識の変化) 「私にとっては、コロナに関係なく、復帰したときが一番、変わったところだと思います。現役を引退して、アスリートがどのような目で見られているのか、客観的に見ることができたので。
今後、私がやるべきことは単純に結果を残すことではありません。この陸上競技、そしてスポーツ選手の在り方をもう一度見直して、良い形で国民の皆様に受け入れてもらわなければな、というのがあります。アスリートは結果を出すだけが仕事ではなく、結果を出すのはもちろんですが、応援、支援がないと生きていけない仕事なんですね。それは大会開催にもつながることで、大会がなければアスリートは評価がないに等しいわけです。
東京五輪に関しては、厳しい意見、ポジティブな言葉を耳にしますが、コロナに関係なく、東京五輪は国民の皆様にとっても、私たちアスリートにとっても、みんな一緒の気持ちになって開催してほしいというのがある。アスリートだけがやりたいというのは、私のなかでは違うかなと思っています。アスリート、国民の皆様の気持ちが一緒でないなら、まったく開催する意味がなくなってしまう。
東京五輪に限らず、今後の大会も皆様の応援あってこそ、私たちが表現できる場所だと思うので、そういう気持ちは今後も大事にしていきたいと思います」
「試合と同じくらい、ポイント練習で緊張する」(東京五輪に向けて、メンタル面の強化について問われて) 「メディアの方はご存じだとも思いますが、メンタルは非常に弱い方だと思っていて、緊張したら周りのことは見えていないのが現実です。逃げられるものなら逃げたい、棄権できるものなら棄権したいといつも思っています。
ただ、仕事としてお金をもらっている以上は、どんな状態でも走り切らなければいけませんし、ただ走り切るだけでなく、結果を求められる以上、どんなことがあっても結果を取りに行かなければいけない。そこだけはどんなに弱い自分が出てきても曲げたことがない。これからも曲げずにどんな舞台であってもやっていこうと思います。
私はポイント練習やきつい練習のときでも試合と同じくらい緊張してしまうんです。だから、私にとっては練習のときとほかの記録会、国際大会、日本選手権も同様で、その差は感じない。今後もスタート前は泣きそうな顔をしていますが、しっかりやることはやるので期待してもらえればなと思います」
東京五輪では自身の日本記録を上回る29分台を視野に準備を進めている(写真/椛本結城)