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2021-03-12

【連載 名力士ライバル列伝】武蔵川3大関―二子山上位陣その3

平成12年春場所2日目、回転の速い突っ張りを繰り出して横綱若乃花を破り、初めて二子山上位陣の壁を崩した雅山。若乃花はこの場所中に引退を表明する

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空前絶後、1つの部屋に1横綱3大関が同時期に並び立つ壮観を実現させた武蔵川部屋。
その武蔵川3大関と、横綱貴乃花、若乃花、大関貴ノ浪の「二子山上位陣」との対決を中心に、
20世紀末~21世紀初頭の土俵を沸かせた「二子山」vs.「武蔵川」の対決構造を浮かび上がらせたい。
※平成28~30年発行『名力士風雲録』連載「ライバル列伝」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

雅山―二子山上位陣

“新怪物”に厳しさ示した千秋楽の敗戦

平成11(1999)年春場所から続いた「武蔵川6連覇」の黄金時代。起爆剤となったのは間違いなく、デビューから4場所連続Ⅴで、その春場所に新入幕を果たした雅山だ。毎日、武蔵丸を含めた“4兄弟”の先陣を切り、底上げ役として奮闘。この新入幕場所も、10日目に早々と勝ち越しを決めた。

しかし、そんなザンバラ髪の“平成の新怪物”に洗礼を浴びせたのが二子山勢だ。11日目、武蔵丸と賜盃を争う貴ノ浪に立ち向かったが、引っ張り込まれて何もできずに極め出された。「マゲも結えない相手に、土俵際で勝ったなんて言われたくない」と貴ノ浪。「大関(武蔵丸)のために抵抗もできなくて悔しい」と唇をかんだ雅山は、翌日も安芸乃島に引き落としで完敗した。二子山の猛者たちは、その後も雅山の高い壁となり、二子山上位陣との通算戦績は6勝26敗。特に貴乃花には11連敗と、一度も勝てずに終わっている(対若乃花1勝2敗、貴ノ浪5勝13敗)。

それでも、新三役に駆け上がった平成12年初場所には、武蔵川6連覇目を実現する武双山とともに優勝争いに食い込んだ。そして、ようやく大銀杏を結った春場所も、2日目に若乃花を寄り切って、二子山上位陣から初白星(名人横綱引退の契機になる勝利に)を挙げるなど勝ち進み、Ⅴ戦線に名乗りをあげた。だが最後、やはり立ちはだかったのが、二子山の力士、ベテラン貴闘力だ。千秋楽、直接対決に勝てば、武双山らとともに優勝決定戦に持ち込むことができたが、土俵際逆転で送り倒され、貴闘力に幕尻優勝を許してしまう。「7連覇」の夢が潰え、再び賜盃が二子山に渡った瞬間、雅山はしばし立ち上がれず、支度部屋でも悔しさに沈黙を貫いた。プロの厳しさを味わわせてくれた、偉大なるライバル部屋の力士たち。雅山はその若手時代の経験を胸に、現役後半には逆に自らが若手の壁役となって奮闘していくことになる。

さて、武蔵川3大関は、平成の大横綱・貴乃花の最後の花道とも深くかかわってくる。平成13年春、夏場所と、武双山は貴乃花を強烈な巻き落としで連破。特に夏場所14日目の土俵際での一撃により、貴乃花は右ヒザに大ケガを負う。この武蔵丸への援護射撃が、逆に千秋楽の“貴乃花、忿怒(ふんぬ)の表情”のドラマに変わるのは皮肉だったが、昇進以降、腰痛で思うような成績が残せていなかったなかで、武双山にとっては大関としての意地を示した一番でもあった。

そして、大横綱ラストの平成15年初場所。2日目、雅山が貴乃花を相手に捨て身の二丁投げ。物言い取り直しの末敗れたが、横綱は投げられた際に左肩を強打し一時休場した。そして7日目、今度は出島が、決意を秘めて再出場する横綱の心を挫く、鋭い出足からの、最後は渡し込み。貴乃花は2日後、引退を表明する。元大関二人の強烈なプライドが、二子山時代の幕を完全に下ろしたとも言えるだろう。

『名力士風雲録』第14号武双山・出島・雅山掲載

雅山―二子山上位陣対戦表

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