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2021-06-22

【泣き笑いどすこい劇場】第2回「師匠の悲喜劇」その1

平成16年夏場所は優勝決定戦で朝青龍に敗れるも、西前頭筆頭で13勝2敗の好成績を挙げた北勝力

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力士にとって、直径4メートル55センチの土俵は晴れの舞台。汗と泥と涙にまみれて培った力を目いっぱいぶつけて勝ち名乗りを受け、真の男になりたい、とみんな願っています。とはいえ、勝つ者あれば、負ける者あり、してやった者あれば、してやられた者あり、なかなか思うようにいかないのが勝負の世界の常。真剣であればあるほど、思いがけない逸話、ニヤリとしたくなる失敗談、悲喜劇はつきものです。そんな土俵の周りに転がっているエピソードを拾い集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載していた「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。第1回から、毎週火曜日に公開します。

弟子と師匠は一体

平成22(2010)年九州場所2日目、ついに横綱白鵬の連勝が「63」で止まった。殊勲の星を挙げた稀勢の里(のち横綱)は「勝った瞬間、あれあれっという感じでした」とキツネに鼻でもつままれたような顔をしたが、この愛弟子の快挙に師匠の鳴戸親方(当時、元横綱隆の里)は、一夜明けても「お客やお祝いの電話がひっきりなしにかかってくる。昨夜、ようやく夕食にありついたのは午後10時過ぎだよ」と、まだ世紀の快勝劇の余韻に浸っていた。

勝って笑い、負けて悔しがる。まさに師匠は弟子と表裏一体。ときには弟子以上に意気込んだり、勇んだり、嘆いたりすることも。そんな師匠の悲喜劇にスポットを当ててみると――。

究極の助言

力士も調子のいいときばかりではない。師匠が最も辛く、言葉に詰まるのは、弟子の負けが続いたときだ。平成18年初場所、東前頭11枚目で12勝3敗と大活躍して3度目の敢闘賞を獲得した北勝力(現谷川親方)は、次の春場所、西前頭2枚目に躍進したが、何と今度は1勝14敗と手のひらを返したように大敗した。天国から地獄に真っ逆さま。重傷も重傷、大重傷だ。

こういうとき、どうやって励ますか、師匠は難しい。下手に声を掛けると逆効果になりかねないからだ。

「今朝はどんなアドバイスを――?」

と報道陣に問われた師匠の八角親方(元横綱北勝海、現理事長)、テレビの名解説ぶりとは対照的に、ほとほと困り果てた顔でこう言った。

「アドバイスといっても、ここまで負けると言いようがないもんね。だから、ひと言だけ言いました。とにかく何でもいいから、何かしてこいって。朝早く稽古場に下りて一生懸命、準備しているんだから。何もしないでスーッと下がって土俵を割っては、お前も欲求不満になるだろうって」

究極のアドバイスですね。

月刊『相撲』平成22年12月号掲載

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