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2021-07-29

【東京五輪・陸上】再録:田中希実×田中健智コーチ対談「ぶつかり合い高め合う親子独自の距離感」

 2019年以降、父・健智コーチとともにオリンピックロードを歩んできた田中

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練習の質アップで生じた衝突の背景

――選手とコーチの関係になった当初は、メニューの意味の確認などは、どんなやり取りの仕方でしたか。

希実 メニューをパッと見て、“このイメージで行こう”と私が勝手に判断していました。イメージどおりにこなせなかったり、練習の目的がズレているときに父とぶつかることはありましたが、今ほど激しくはありませんでした。父も私も自信がないところがあったので、練習にも妥協があったというか、こなせたらラッキー、くらいでやっていましたね。うまくはまれば世界選手権みたいにボーンと走れますが(ドーハ大会。予選、決勝で自己新)、納得いかないレースもありました。

――練習を大きく変えたのは、昨年2月のニュージーランド遠征で、新谷仁美(積水化学)選手に5000mで敗れたときだと以前の取材でうかがいました。

健智 新谷さんはそのレースの前にオーストラリアで1試合走り、ニュージーランドでは五輪標準記録の15分10秒を切ることを目標に臨んでいました。我々はシーズン最初だから15分20秒くらいでいいよね、という程度の意識で臨んでいた。しかし、いきなり(17秒96差と)衝撃を受ける結果が出て、その日の夜、悔しさが消えないうちに話し合いをしました。

希実 ジョグを最低でも(1㎞)4分00秒ペースにしようと決めたことを覚えています。また、1年目のできて当たり前の練習と、できない可能性の高い練習の頻度、バランスを逆転させるイメージでした。

健智 それができる体や心に近づくには、どうしたらいいのか。そこまでやる覚悟を決めるのか、決めないのか。お互いに確認したのです。

希実 覚悟を決めて上を目指したい、そう返した記憶があります。でも、設定タイムも含めて、質の高い練習をこなせるかどうかは正直、やってみないと分からない。私はいまだに練習をこなせないときに、次の練習も、その次の練習もこなせないまま大会を迎えたらどうしよう、という恐怖があります。こなせない練習をしても仕方ない、と強く思ってしまうんですね。嫌なイメージもつきますし、体もボロボロになるので。

健智 それまでは共に、世界大会を目指そうとか、チャレンジすることにワクワクしながらやっていたと思うんです。それが世界選手権では良い方に結果が出ましたが、次にまた代表になったとき、それ以上の足跡を残すには、相当の覚悟がいるな、と感じていました。それを口に出せないまま2020年シーズンを迎えようとしていたら、2月に目を覚まさせてもらったということです。

希実 それ以降は、父と激しく衝突することが増えたのですが、練習をやりたくない、というわけではないんです。父が、この練習をできないと強くなれない、と考え抜いて立ててくれたことは分かっています。でも、できないと言ってしまうんです。(設定タイムなど)練習の質を落としてほしくて言っているのか、自分でも分かりません。そういった苦しみが伴う練習だということを、ニュージーランドで覚悟を決めたときには分かっていませんでした。

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