close

2021-07-29

【東京五輪・陸上】再録:田中希実×田中健智コーチ対談「ぶつかり合い高め合う親子独自の距離感」

 2019年以降、父・健智コーチとともにオリンピックロードを歩んできた田中

全ての画像を見る


思いを飲み込むことは妥協になる

――練習の質が上がり、100%達成できないメニューも増え、それによって衝突することも増えたとおっしゃっていますが、結果には結び付いてきました。仮に90%の達成率でも地力は上がっているわけで、コーチとしてはその点を意識されているわけですよね。

健智 そういうところはあります。本人は100%達成できないことに対してもがいてしまっていますが、練習の質が上がっているわけですから1年前の同時期と比べたらベースは上がっているわけです。今の地力なら昨夏を超えられるかもしれませんし、1年前のパフォーマンスくらいはいつでも出せます。できないことがあるのは、伸びしろがあるということなので、後ろ向きに考える必要はないのですが。

希実 イメージの問題かもしれませんが、質が上がる前の練習はこなせて当たり前のレベルで、私のなかでは120%で練習ができていました。設定タイムに対して120%の結果を出せると自信のつき方が大きいのです。質が上がっていることは理解していても、今の練習レベルの80%が当時の120%を超えていても、気持ちの部分ではモヤモヤが残ってしまうんですね。

健智 去年の4月ごろにぶつかることが多くなり、それが1年経ってまた繰り返されている。お互い苦しんではいるのですが、それをやめたら立ち止まることになります。関係が修復できないくらいに壊れてしまったらダメなのですが、一度壊して更地にして、もう一度2人で一から組み立てられると思っています。それは私もコーチを引き受けた以上、本人も私を選んだ以上、絶えず付きまとうことだと理解しています。本人だけでなく、コーチの私も覚悟を持たないとダメだと思うようになりました。

――練習でぶつかったことを、帰宅後に持ち出したりするのでしょうか。

健智 練習場所で解決しない話を、家に持ち帰って続けることはあります。練習は豊田自動織機TCとして動いていて、ほかにも選手がいますから、その場ではいったん抑えて、家でまた話し合うことが多いですね。

希実 私は整理できない方がストレスになるので、家でもまず(ぶつかった案件を)話さないとリフレッシュできないんです。別のことをしたら現実逃避だと思います。だから家に帰っても、どうしても出してしまいます。

健智 思いを飲み込むと伝わらないこともありますし、妥協にもなります。ほかの選手や指導者のなかには、最後の言葉を飲み込んでいることが多いように思います。ある意味、越えてはいけない一線となる言葉です。しかし私たちは親子だから許される言葉、受け入れられる言葉があります。それを吐き出せるから競技に集中もできます。本人も私も、その言葉を出した以上、しっかりやらないといけなくなる。そこにつながっていると思います。



●Profile
たなか・のぞみ
◎1999年9月4日、兵庫県生まれ。小野南中→西脇工高(兵庫)→ND28AC→豊田自動織機TC(同志社大4年在学中)。153㎝・41㎏。中学時代から陸上競技に本格的に取り組み始め、1年時より全国大会で活躍。高校入学後は、国際大会でも力を発揮し、2度出場したU20世界選手権3000mでは高2時の2016年大会は8位、18年大会は優勝を果たした。大学入学後はクラブチームで活動し、19年ドーハ世界選手権に出場。5000mでは予選、決勝と自己新をマークし14位。昨年12月の日本選手権5000mで優勝を果たし、東京五輪代表に内定。また女子1500mでもワールドランキングの出場上限枠内に入り、日本勢として史上初めて出場権を獲得した。自己ベストは1500m4分04秒08(21年/日本記録)、3000m8分40秒84(21年/日本記録)、5000m15分00秒01(19年/日本歴代3位)

たなか・かつとし
◎1970年11月19日、兵庫県生まれ。三木東高(兵庫)→川崎重工。現役時代は中長距離選手として活躍し、1996年いっぱいで引退。2001年までトクセン工業で妻・千洋さんのコーチ兼練習パートナーを務めた後、ランニング関連会社に勤務しイベント運営やコーチングを学び、2006年にAthle-C(アスレック)を立ち上げ、独立。現在は豊田自動織機TCの田中希実、後藤夢の指導に当たる。

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事