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2022-06-14

【陸上】日本選手権2冠の田中希実、4日間で過密な5レースは世界で戦う選手を想定して「私もそのくらいの覚悟が必要」

東京五輪1500m8位入賞の田中が、今年の日本選手権では3種目5レースを走り切った。1500mと5000mの2冠達成



「怖さ」と向き合って得たもの

国内では異次元のレベルに立っているように見えるが「そこまで力の差があるとは思っていません」と本人の感覚は違うようだ。大会期間中に何度も「怖い」という言葉を口にした田中。1500mのフィニッシュ後には「自分を見失ったレースをしたら3位以内を死守できないんじゃないかと考えていた」とレース前の葛藤を打ち明けた。

周囲からの期待感とは裏腹に、大会前は自信を失っていた。5月のアメリカ遠征で1500m4分06秒35のシーズンベストをマークした一方、2戦目のダイヤモンドリーグ・ユージーン大会では4分07秒43で最下位の15位に終わった。「海外レースを走れたことでの手応えを感じられずに戻ってきてしまった」と振り返る。

ともに遠征したチームメートの後藤夢とは日本選手権までの調整は別々に。東京五輪1500m代表の卜部蘭(積水化学)の動向も気にかかっていた。5000mで内定済みだった昨年とは異なり、3位以内を死守しなければならない重圧もあり、不安に駆られていた。

「後藤選手と卜部選手の気持ちの強さは、ずっと春先から見させてもらっていました。後藤選手も最終調整は別々で、同じチームでも互いに孤独な部分がありました。その孤独を制した後藤選手の強さも怖いなと思って。卜部選手はどういう状態か全然分からなかったので、怖いなと思っていました」

大会の前日会見では「自分の中で何かに勝てたと思えるレースがしたい」と語っていた田中。勝敗に限ってのことではない。1500mで怖さと向き合い、3種目を通して昨年より「質」が上がったとの手応えも得た。4日間のチャレンジを田中はこう振り返る。

「自分自身に負荷を掛けてやっと『火事場の馬鹿力』が出せるけれど、なんでもない時に向き合うことができない。今回は一瞬、一瞬を大切にして向き合えた感覚があります。この集中力でずっとレースに向かうのはキツいことだけれど、世界で戦っている選手はこういう日々を送っているのかもしれない。私もそれくらいの覚悟が必要な域に入ってきているのかなとも思います」

800mもワールドランキングで代表入りの可能性が残るが、大会スケジュールを考慮して、1500mと5000mに出場する見通し。「2種目とも中途半端にならないことを意識したい。今は両方で決勝に残って戦うという手応えを得ています」と田中。代表切符と同時に、確かな自信も手にしたようだ。

オレゴン世界選手権の新ユニフォームをまとう
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文/荘司結有 写真/中野英聡、毛受亮介

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