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2022-08-27

【ボクシング】“次世代スター候補”今永虎雅はプロ2戦目に4回KO勝利

左ストレートで追い込む今永

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 26日、東京・後楽園ホールで行われたライト級6回戦は、アマチュア10冠で、6月にプロデビューを飾った今永虎雅(いまなが・たいが、23歳=大橋)がジョン・ローレンス・オルドニオ(25歳=フィリピン)に4回3分KO勝ち。堤駿斗(志成)、松本圭佑&中垣龍汰郎(ともに大橋)ら「1999年生まれ」の同期たちとともに、“次世代スター候補”の道を歩む。

文_杉園昌之
写真_山口裕朗

 急がば回れ──。アマ10冠の今永は、自らに言い聞かせるように戦っていた。力んで半ば強引にねじ伏せたデビュー戦のKO劇とは中身が違う。

 プロ2戦目のサウスポーは初回から上下に打ち分ける右ジャブで間合いを図り、じっくり攻めた。一定の距離を保ち、要所では踏み込んで、得意の左を相手の腹へ。プラン通りに進めているように見えたが、実は想定外の展開だった。12戦目を迎えるオルドニオが思ったよりも前に出て来なかったため、八重樫東トレーナーと立てていた作戦を急遽変更。当初のシナリオを捨てて、すぐに頭を切り替えたという。

「自分の距離で戦い、このままパンチを打っていけば、勝てると思った」

 2回にはバランスを崩して、冷や汗をかくようなスリップダウンが2度あったものの、終始ペースは掌握。3回からはプレスを強め、ボディ攻撃だけではなく、左ストレートをきれいに顔面にもヒットさせる。

ボディブローでオルドニオを完璧に沈めた
ボディブローでオルドニオを完璧に沈めた

 そして、迎えた4回。相手をコーナーに詰めて、連打。顔面にパンチを集め始めた矢先、強烈な左ボディアッパーを叩き込んだ。今永は目の前のオルドニオが腹を押さえるジェスチャーを見て、ダウン判定と早とちり。踵を返してニュートラルコーナーへ向かおうとしたが、すぐにまだ立っている相手に気づいたという。最後だけは少し急いで、再び左ボディアッパーでトドメ。KO負けが一度もないフィリピン人をキャンバスに四つん這いにさせたまま、10カウントを聞かせた。

「冷静に試合を進めることが課題だったので、落ち着いて戦えたのは良かったのですが、最後に背中を向けてしまったのは反省です」

力みも見えた今永だが、課題をさらけ出して勝つのは悪いことではない
力みも見えた今永だが、課題をさらけ出して勝つのは悪いことではない

 苦笑しながらも、プロ2戦目では手応えも得ていた。日本の枠を超える期待のホープとして注目を浴びているものの、浮ついたところはまったくない。海外を見渡せば、スターがひしめくライト級戦線。世界との距離は、自らでしっかり把握している。「このままでは遠い」と話し、地道にキャリアを歩んでいくことを誓っていた。

 今永の戦績は2戦2勝(2KO)。ジョン・ローレンス・オルドニオの戦績は12戦7勝(4KO)4敗1分。


正に乾坤一擲! 岡田誠一が最終回に高畑里望を大逆転KO

高畑を追い詰めて左フックを振るう岡田

高畑を追い詰めて左フックを振るう岡田

 この日セミファイナルで行われたスーパーフェザー級8回戦は、衝撃的な逆転KO決着──。
 互いに“40オーバー”という異例の1戦は、日本同級16位の高畑里望(たかはた・りぼう、43歳=ドリーム)が長身(180cm)を生かし、にじり寄る同19位・岡田誠一(40歳=大橋)を左ジャブで止め、右フックでサイドを意識させつつ左アッパーカット、同様に左フックから右アッパーを突き上げてコントロールし始めた。身長で8cm下回る岡田は、元々が前傾姿勢。高畑のアッパー攻撃は実に有効に見えた。左ボディブローが優れた岡田の意識が“下傾向”にあることをも突いた攻撃だったように思う。

正面に甘さのある岡田に、高畑は右ストレートを見舞う
正面に甘さのある岡田に、高畑は右ストレートを見舞う

 2回、なおもアッパーを狙う高畑、左ボディブローを窺う岡田という構図が続く中、両者の距離が瞬間大きく開くと、高畑が‪一転してワンツーを突き刺す。この右ストレートが岡田のアゴを真正面から打ち据えると、驚いたようにして一瞬動きを止めた岡田は、ゆっくりとキャンバスに倒れ込んだ。
 ここは8カウントで辛くも立ち上がったものの、岡田のダメージは明らかだった。が、高畑のショート連打に必死に耐えて、このラウンドを何とかしのいだ。

2回、高畑はワンツーで岡田を倒す
2回、高畑はワンツーで岡田を倒す

 このチャンスに、攻撃のテンポを速めてスタミナを使った高畑は、それまでのように大きく動くことを自重し、両者の戦いは一層近距離でのものになっていった。
 高畑のアッパーに岡田はフックをリターン。岡田のボディブローに高畑もやはりフックを返す。間合いができると高畑は、“真正面の意識”が薄い岡田を突いてジャブのヒットを重ねる。試合が後半に入ると、左構えからの右をダブルトリプルとヒットさせて岡田を辟易とさせた。

 しかし、距離が縮まった戦いで岡田の攻撃の回転が徐々に増していたのも事実だ。右は以前からの癖で明らかなチョッピングブロー(再三レフェリーに注意を受けた)だが、これは“呼び水”。続いて放つ左ボディブローの強度は強まり、高畑に後退を余儀なくさせる。試合序盤、自ら下がって誘い込んでいた様相とは明らかに変化していた。
 それでも、ロープ、コーナーを背負う高畑は、威力こそ劣るものの的確なブローを集めて、ポイントを着実にピックアップしていたと思う。

最終回、岡田はそれまで打たなかったワンツーで高畑を大の字にさせた
最終回、岡田はそれまで打たなかったワンツーで高畑を大の字にさせた

 そうして迎えた最終8回。やはり高畑は右足を前に出して右リードを複数当てていく。変わらず岡田は“正面攻撃”への反応が薄い。高畑の中には2回にクリーンヒットさせ、以降“自重していた”ワンツーをふたたび打つ意識も芽生えていたのではないか。そして、“岡田は右ストレートを打てない”という意識も強くあったのではなかろうか。
 そんな中、あの2回とまったく同じ間合い、タイミングが訪れる。と、この瞬間を我がものにしたのは何と岡田だった。ここまでの長い道のりの中、ただの1度も打っていなかった、鮮やかなワンツー。ものの見事な右ストレート一閃──。意識外だったブローをまともにアゴに直撃された高畑はバッタリと大の字に倒れ、レフェリーはノーカウントで試合をストップしたのだった(36秒TKO)。

 3度防衛していた日本王座を失ってから10年。前戦からは2年近く経ち、トレーナー兼任という立場にもなっていた岡田が放った起死回生の一撃は、彼の長いキャリアの中でもベストパンチに数えられるのではなかろうか。打たせて打たせてチャンスを待つ。身を削り、その一瞬を待つという覚悟が生んだ乾坤一擲──。彼の全盛期を知るがゆえ、その想いがあまりに強く痛く突き刺さる。32戦23勝(14KO)7敗2分。
 2017年10月の日本王座初挑戦(判定負け)から5年あまり。タイトル獲得へのあくなき執念で戦い続けてきた高畑は、これで2試合続けてのKO負け。味のある攻め手という持ち味を発揮したものの、やはり最盛期を知るからこそ、時の流れの儚さを痛感する。29戦17勝(7KO)11敗1分。

文_本間 暁
写真_山口裕朗

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