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2023-10-13

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第13回「記念日」その2

平成27年夏場所4日目、佐田の海は取り直しの末、日馬富士を引っ掛けで破って初金星を獲得した

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心に刻む、節目の日が記念日です。
力士たちもそれぞれが、実にさまざまな記念日を持っています。
奮起を促す記念日、過去を振り返り、自分に思いをきたす記念日、苦さを噛みしめた記念日など、など。そんな記念日にまつわるエピソードです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

父は高い山のまま

男の子はオヤジの背中を見て育ち、いつかはあんな男になりたい、追い越したい、と思ってがんばる。オヤジは最も身近な目標だ。
 
平成27(2015)年夏場所4日目は東前頭3枚目の佐田の海にとって忘れられない記念日になった。結びで、初日から3連勝の日馬富士と対戦。右を差して一気に攻め込んだが、土俵際で上手投げを打たれて同体、取り直しとなった。これだけでもなかなかの善戦だったが、取り直しの一番でも、日馬富士が一転して右ノド輪、左おっつけで一気に攻め込んできたところを、土俵際、そのノドにかかった右腕をたぐって引っかけると勢いよく飛び出した。鮮やかな逆転勝ちだった。
 
佐田の海にとっては、これが初めての金星。顔を紅潮させ、座布団が舞う中を引き揚げてきた佐田の海は、

「あの座布団を見て、勝ったのかな、と思った。日馬富士関は、若い衆のときからあんなふうにスピードのある相撲が取りたいと思っていた。憧れの横綱に勝てて、すごくうれしい」
 
と喜びを露わにした。ご存知のとおり、佐田の海は二世力士。父の、四股名も同じ佐田の海は元小結で、三賞も殊勲賞1回、敢闘賞2回、技能賞を1回と計4回も受賞しているが、金星は残念ながら、1個もない。
 
その父にあこがれ、「男を磨くならこの部屋だ」と父の勧めで境川部屋に入門した佐田の海にとって、この金星は初めて父を超えた記念すべき日だった。ちなみに、三賞はこの1年前の平成26年夏場所に1回だけ、敢闘賞を受賞している。
 
多くの報道陣に取り囲まれた佐田の海は、

「これでお父さんを超えたね」
 
と問いかけられると、こう言って強くクビを横に振った。

「いやいや。オヤジは三役だったんで、自分も三役にあがりたい。そこを目指して相撲界に入ったんで」
 
あれから5年。佐田の海にとってオヤジはまだ越えられない、高い山のままだ。

月刊『相撲』令和2年4月号掲載

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