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2023-10-10

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第19回「気合」その4 

若の里に突き落とされた土俵下に落下する朝青龍。この時、右ヒジに重傷を負ってしまった

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暑さの続く夏、こういうときは行動を起こすのも大変ですが、そこは気合です。
一念発起、気合を入れてとりかかれば、不可能なことも可能になり、新たな道が開けるってもんです。
現に、そうやって活路を開いた力士がいるんですから。
そんな気合のエピソードを紹介しましょう。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

休んではいられない

病は気から、というが、その病やケガからの回復も気から、と言える。

平成18(2006)年夏場所2日目、朝青龍は西前頭2枚目の若の里(現西岩親方)を右から引き付け、強引に寄るところを左から突き落とされた。土俵下に転落した拍子に右ヒジを痛め、翌日から休場。右ヒジ内側側副靭帯損傷で全治2カ月の重症だった。ところが、稽古嫌いだった朝青龍が休場して6日目には夜のランニングを開始し、7日目朝には、

「体が何かしてくれと言ってるよ」

と言って稽古場に下り、四股やスリ足で汗を流した。

朝青龍に何が起こったのか。この場所、大関に昇進したばかりの白鵬(のち横綱、現宮城野親方)が史上4番目、21歳2カ月の若年優勝をしている。若い力士が着実に力を付けてきたのを目の当たりにしてジッとしていられなかったのだ。そして、出場できるかどうか、注目された次の名古屋場所の番付発表から1週間後、

「休場する理由は、どこにもない」

と出場を宣言し、出稽古を開始した朝青龍が真っ先に選んだ出稽古先が、前の場所、負傷させられた因縁の若の里のいる鳴戸部屋だった。

「まずこの相手とやらないと、と思ったんだ。どこが悪かったのか、ちゃんと確かめないと」

とその理由を明かし、若の里を相手に11番取ってなんと11連勝。気合のこもった出稽古で不安を打ち消した朝青龍は、この場所、白鵬らの追走を振り切って14日目に2場所ぶり17回目の優勝を決め、こう言って胸を張った。

「先場所、ヒジを痛め、完治まで2カ月と言われたときはショックだった。でも、(完治を)待ってはいられない。いろいろ言われたけど、もう一度優勝したいと思って、体を汗で磨いてきたんだ。努力してんだよ、人前では言えないような」

月刊『相撲』平成24年5月号掲載

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