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2023-10-24

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第20回「拒否(ノー)」その2

平成14年秋場所、8場所ぶりに復帰した横綱貴乃花は、報道陣の質問にも答えず土俵に集中し、武蔵丸との千秋楽決戦につなげた

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“生き馬の目を抜く”というなんともおどろおどろしい表現がありますが、そんな油断もスキもない勝負の世界で生き抜くのは大変なことです。
中途半端な気持ちは、まずダメ。
時には、たとえ周りがなんと言おうと、嫌なことには嫌、ときっぱりクビを横に振って拒否する意地と勇気が必要です。
もっとも、拒否の仕方、方法も色々、様々。
ノーが通りにくい世界で、どうしてあのとき、あの力士はノーと言ったのか。
これはそんなエピソードです。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

濃密な闘い

力士と報道陣は、言ってみればクルマの両輪のような関係だ。どちらが欠けても成り立たない。しかし、この濃密な関係をあえて断ち切り、取材拒否をしたのが平成14(2002)年秋場所の横綱貴乃花だった。この場所は、右ヒザの故障を押して8場所ぶりに土俵に戻ってきたところで、思うような成績を挙げられなければ即引退、という厳しい状況に追い込まれていた。

この場所の貴乃花の一挙手一投足がいかにファンの注目を集めていたか。初日の高見盛(現東関親方)戦のテレビの瞬間視聴率が27.6%にハネ上がったことでもわかる。現在では考えられない数字だ。取材合戦も、場所前から火花が散っていた。連日、朝稽古の段階から貴乃花の周りには記者やカメラマンが黒山のよう。そんな報道陣に貴乃花はこう通告した。

「集中できないので、カメラのフラッシュは焚くな。質問もしないで」

それだけ復帰に向けて一点集中、かつ一心不乱だったのだ。そして、場所の後半、もう一人の横綱武蔵丸(現武蔵川親方)と手に汗握る競り合いに突入すると、貴乃花はどんなに報道陣から質問を浴びせられようと開荷の前で硬く目を閉じ、ホントに何も答えなくなった。

こんなに土俵に集中したにもかかわらず、千秋楽相星決戦にもつれこんだ2横綱の激突は武蔵丸に軍配が。貴乃花の奇跡の優勝はならなかったのだ。闘い終えた貴乃花はやっと重い口を開き、

「悔しさ、充実感、両方ありますが、いまはすごく気持ちいいですよ。まだ私の力不足。そういう気持ちで、今度ぶつかっていければ、と思います」

と時折、笑みを浮かべて話した。沈黙が演出した息詰まる熱闘。もう一度、ああいう濃密な闘いを見てみたいものだ。

月刊『相撲』平成24年6月号掲載

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