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2024-02-02

【アイスホッケー】 平野裕志朗(AHLユティカ、ECHLアディロンダック)五輪予選直前インタビュー 「結果を残して、若い人や子どもたちが歴史を書き換えてくれるのを楽しみにしたい」

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幻のアイスホッケー・マガジン「2022-2023」は、平野(左)と佐藤優の表紙の予定だった。佐藤は今回の五輪予選に参加していないが、4月の世界選手権には声がかかるかもしれない

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アイスホッケーのミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪(本大会は2026年)の男子3次予選が、2月8日からハンガリー・ブダペストで行われる。現地では24選手(大会登録は23選手)が合宿を行なっており、アメリカでプレーするFW平野裕志朗も日本代表に合流する。自宅で遠征の準備をしているさなか意気込みを聞いてみた。
 
日の丸を背負って戦える舞台は誰にも与えられるわけじゃない

――久しぶりですね。あれ、前歯がかけているような…?

平野 ああ、これですか? 前回、AHL(アメリカン・ホッケーリーグ。NHLを筆頭とする2部リーグ)にコールアップされた時に3本、折れてしまったんです。

――平野選手の「戦いの日常」のハードさが伝わってきますね。さて、五輪代表の合宿メンバーが日本でも発表になりました。平野選手の名前が日本代表にあることで、ホッとしているファンもいるのではないでしょうか。

平野 ニュージャージーにいるECHL(イーストコースト・ホッケーリーグ。NHLから数えて3番目のリーグ)の組織が「日本のために戦うこともいいんじゃないか」ということで、合宿に参加することを決めました。僕のところに話が来る前に、日本代表監督のペリー(・パーン)さんが直接、チームのほうに連絡を入れていたみたいなんです。僕は、夏に日本のアイスホッケー界に対する文書を送ったんですけど、日ア連や各チームも試合を組んでくれて「努力してくれているんだ」と安心していたんです。でも、その文書のことがあったので、日本代表のスタッフからは「裕志朗としては代表に参加することはどうなの?」と気にしてもらっていたんですよ。もともと「日の丸」を背負って戦える舞台は、誰にも与えられているわけじゃないし、しかもチームの中心として期待してもらっているわけです。「日本のために戦いたい」という希望は、もともと僕も強いものがある。合宿には、日本時間の1月31日に出発します。

――ただ、アメリカで生存競争をかけた中で戦列を抜けるのは、本音をいうと、かなり痛いのではと思います。

平野 そうですね。ECHLでは6試合、抜けることになります。日本代表に行くと決めてからわかったことですが、僕はちょうどそのタイミングでAHLにコールアップされる予定だったそうです。後日、ユティカのGMから聞かされたことですが…。

――12月半ばにECHLに戻って、そこから平野選手はAHLに呼ばれるために毎日、頑張ってきたわけですが、ハードラックというか、ちょっとショッキングなことですね。

平野 でも、予選を突破すれば、夏に最終予選で戦えるわけですからね。そこで日本のレベル自体がアップすると思うんです。そんな簡単な道ではないと思いますが、勝てばオフシーズンの過ごし方も変わってくる。そこを考えた上で五輪予選行きを決めました。

NHLだって「きっかけ」さえあればそれほど遠くに見えているわけではない

――今はECHLでプレーしていて、「やりたいことができている」ように思います。バックドアを決める左のシュートエリアは、まさに「ショータイム」。でもAHLでは、今季4試合出場でマイナス5です。

平野 AHLはちょっとしたミスで、確実に決めてくる選手が多いんですよ。僕は4つ目で出ることが多くて、そうなるとトライが少なくなるんです。「そこにいて欲しいのに、いない」みたいな、ちょっとしたズレがある。そうこうしているうちに相手に付け込まれる…というケースが多いですね。

――今後ユティカにコールアップされたら今度はうまくやってやる…そういう自信はあるのでしょうか。

平野 プレー自体は悪くないと評価してくれていますし、1つ目のPP(パワープレー)にも使ってもらっていたんです。シューターとして認めてくれる場面もあって、自分では確実に「できる」と思っています。ユティカは今シーズンからプレーするんですけど、チームが変わると、自分に対する見方もずいぶん変わってくるんですよ。2年前、アボッツフィールド(AHL)でプレーした時には、ちょっとずつ試合に出してもらって、自分のアピールポイントもわかってもらえて、最後には1セット目、2セット目で使ってくれた。本当にいい流れに乗っていたんです。今回のユティカはFWの9人が決まっていて、4つ目でなんとか結果を出さなきゃいけないというのはあるんですけど、まあ難しいですよ、新しいチームでやるというのは。

――今、平野選手は28歳。たとえば「28歳」の選手と「20歳」の選手がいたとしたら、もしかしたら20歳のプレーヤーのほうにチームやエージェントは引かれるんじゃないか、という可能性もあります。

平野 もちろん、あるでしょうね。28歳の平野と、組織が育成のために取った若い選手と、どっちをとるのか…。僕は、とにかく結果を出すしかないんです。誰にも、何も言わせない数字を挙げていくしかない。もちろん自分には足りないものもあると思うんですが、海外は「きっかけ」と「タイミング」で、どうにでもなると思っているんです。去年はECHLでやっていて、今はコールアップされてNHLでプレーしている選手もいます。本当に「きっかけ」さえあれば、何が起こるかわからない世界なんですよ。だからNHLだって、僕にはそれほど遠くに見えているわけではないんです。ただ、リーグにはまだまだ「アジア人」という枠で見られてしまう。実力でカバーできていないというのが僕の力です。

――実力の世界とはいえ、アジア人はやっぱり不利な状況になってしまうと…。

平野 そうです。こういうリーグで7年、8年やっていると「しょうがない」こともわかってくるんです。ほかの日本人はそれだけ長く海外でプレーした経験もないと思いますけど、でも、それを言い訳にしたくないし、将来、子どもたちに味わってほしくない。ここで戦い続けることで、何か結果を残したいというのはあります。

――アディロンダックは、アフィリエイトのトップがニュージャージー・デビルズ。古いファンからすると、DFスコット・スティーブンス、ニーダマイヤー、FWクロード・ルミューといった栄光のチームです。一番のスターはGKマルティン・ブロデューア。メドーランド(旧本拠地)に一度見に行ったことがあるのですが、今度はプレデンシャルセンターに響く「レッツゴー・デーボー」という歓声を、平野選手が浴びる姿を見てみたいです。

平野 本当に栄光のチームですからね。そういえばブロデューアの息子が、アディロンダックのゴーリーなんです。試合にも、よく父親が見に来ていますよ。

五輪予選でしっかり勝っていって「いい流れ」を未来につなげたい

――平野選手は日本のアイスホッケーファンのためにYouTubeの編集作業もしています。アメリカで戦って、日本のために「広報」活動をする。これって、なかなかできないことだと思うんです。

平野 まあ、他の人に振れればいいんですけどね(笑)。自分のアカウントとか、YouTubeの番組なんかは兄が手伝ってくれているんですけど。

――アイスホッケー・マガジンの2年前の表紙は、平野選手と佐藤優選手(KHLニジニ・ノヴゴロド、現在はVHLディーゼル・ペンザ)の予定でした。私は病気で倒れてしまって迷惑をかけたのですが、その佐藤選手は、今年、KHLの試合をスクラッチ(ベンチを外れる)することもありました。体が万全なのにスクラッチに甘んじるというのは、ホッケーマンにとって本当につらいことですね。

平野 優はまだ若いので、早い段階でそこから立ち上がっていくというのも大事な経験だと思います。彼はすごくポテンシャルがあるので、ここで耐えて、耐えて、耐えきったときに、結果が出てくると信じています。

――佐藤航平(イギリス・ベルファスト)、三浦優希(ECHLアイオワ)、磯谷建汰(WHLワナッチー)、安藤優作(NCAAミネソタ州立大マンケート校)など、海外でプレーする人は平野選手を「トップランナー」としてみんなが頼りにしていると思います。

平野 海外に出ている人で、年齢が自分より上の人が人里茂樹さん(ポーランド・カトヴィツェ)しかいないんですけど、若い人を見ていると、自分が昔、経験したものを思い出させてくれるんです。こないだも優希が「今は4つ目で、あんまり試合に出れていないんです」と悩みを話してくれたり、榛澤力(NCAA・セイクリッドハート大)が「今、ちょっとつらいんですよ」と相談してくれたり…。それでいて磯谷君は、しっかりと結果を残していますからね。僕も刺激を受けているし、彼らとはもっともっと「ファミリー」になりないなと思っています。自分たちのやってきたことを、若い人だったり、子どもたちが書き換えてくれるのを楽しみにしていたい。そのためにも、日本代表がここで踏ん張らないといけないんですよ。

――あらためて、五輪予選にかける思いをお話しいただけますか。

平野 今シーズン、いろいろなことが日本のアイスホッケーにありました。僕個人にもいろんなことがあって、今もまた、もがいている時期ではあるんですけど、その中でチーム(アディロンダック)はいい状態なんです(1月途中まで12連勝)。チームの「キー」を任されているとはいっても、僕はまったく満足していない。自分はもっともっとできるし、「ここでもがいているようじゃ、NHLはまだまだ」と、自分に言い聞かせながらやっているんです。今、ちょうどそのタイミングで「日の丸」を背負って戦えるチャンスが来た。五輪予選はいいトーナメントにして、しっかり勝っていきたい。そして、その思いをしっかりアメリカに持ち帰って、自分の未来につなげたいなと思います。


ひらの・ゆうしろう
AHLユティカ・コメッツ、ECHLアディロンダック・サンダー所属。FW。1995年8月18日生まれ、北海道苫小牧市出身。緑小から和光中、高校は帯広の白樺学園へ進み、ティングスリュード(スウェーデン)、USHLヤングスタウンを経て2016年から東北フリーブレイズでプレー。その後はカルマル(スウェーデン)、AHLウィルクスバリ・スクラントン、ECHLウィーリング、ECHLシンシナティ、横浜グリッツ、AHLアボッツフィールド、そして今季からユティカ、アディロンダックに在籍する。背番号は「71」。理由は「姪っ子の誕生日が7月11日だからです」とのこと。

山口真一

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