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2024-02-11

【アイスホッケー】オリンピック3次予選・最終戦 3試合連続で逆転勝ち。ランク上位のハンガリー下し、日本は最終予選へ進出!

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本当に限られた予算内で、短期間の合宿を行ってきた日本代表。そんなハンガリー精神、いやハングリー精神で、五輪最終予選の切符をつかみ取った(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)

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アイスホッケーの2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪の男子3次最終日は2月10日、ハンガリー・ブダペストで3回戦が行われ、男子ランク25位の日本と、19位のハンガリーが全勝同士(ともに2勝)でぶつかり、日本が2-1(0-0、0-1、2-0)で逆転勝ちして、8月末から開催される最終予選に進むことになった。

まず「守り」、そして「チームとしての攻撃」を貫いた日本。

 前日に退場処分になったFW平野裕志朗(アメリカ・ユティカ、アディロンダック)のサスペンションもなく、これで全勝対決に万全で臨めることになった日本。リトアニア戦、そしてスペイン戦では、試合序盤に運動量で押し込まれてリードを許したが、19位とランキングで6つも違うハンガリー戦で同じような試合運びになってしまうと、命取りになりかねない。

 日本がまず重要視したのは「守り」だ。そして、速いトランジションから攻撃に移る時でも、OゾーンのブルーラインでDF2人がとどまり、ハンガリーの反転速攻にも対応できるように準備した。格上の相手に対して、あくまでも「セーフティー・ファースト」。それを徹底したのだ。

 1ピリ。過去2戦とは対照的に、日本は相手に合わせたゲーム運びはしなかった。試合開始直後から、動きはハンガリーにもひけをとらない。惜しむらくは1ピリで3つ相手のペナルティがあったが、ゴールを揺らすことはできなかった。

 逆に16分から、日本のFW2人が立て続けにペナルティを犯した。ここでPKユニットが身を挺してゴールを守った。特に、FW大澤勇斗(横浜グリッツ)の動きが光った。相手のシュートに対してボディレシーブ、続けて足を投げ出すなど、献身的な守りを見せたのだ。

 シュート数はハンガリーが9で、日本が4。2点ないし3点が、この試合のマックスだと日本は読んでいるのだろう。

 2ピリ、後半の36分。この試合で最初のヤマが来る。日本のFWがクロスチェックのペナルティ。そこですかさずハンガリーが先制するのだ。この予選で、日本は実に3試合連続で相手にリードを許す結果となった。

シュート数はハンガリーの37本に対し、日本は約半分の20本。セーフティーな試合運びを60分間、貫き通した(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)
シュート数はハンガリーの37本に対し、日本は約半分の20本。セーフティーな試合運びを60分間、貫き通した(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)

日本のアイスホッケーのピンチに、ハンガリーから風が吹いた。

 1点を追う形で迎えた、第3ピリオド。42分にPPを得た日本は43分、右Dの平野から、ゴール左のスロットエリアで待っていたFW中島彰吾(レッドイーグルス北海道)へパスが渡る。相手ゴール前には、日本のFW2人がダブルスクリーン。すきを見て、中島はワンタイムで平野のパスをたたき、豪快にゴールネットを揺らした。

 なおも45分、DFハリデー慈英(レッドイーグルス北海道)がシュートのこぼれ球を難なくゴールに叩き込んだ。ハンガリーはGKのほか、なんと5人がゴール前に固まっていた。これで2-1と逆転。足の落ちてきたハンガリーの弱みをつくように、終盤に来て日本が運動量で完全に優位に立ったのだ。

 そして1ピリから3ピリまで、この日はGK成澤優太(レッドイーグルス北海道)に、まるで危なげがなかった。昨年4月に行われたエストニア・タリンでの世界選手権I・Bで日本は優勝。そこで最優秀GKに選ばれたことが、自信になっているのだろう。

 結局、このあと14分半を守り切って、2-1のまま日本は勝った。

 五輪予選の過去2戦を見て、はたして日本は強いんだか、強くないんだか、どうにもわからなかったが、はっきりと「強い」ことを確信した。それはアイスホッケーの強さというより、たぶん、アイスホッケーの仲間を思う「気持ちの強さ」であることなんだと思った。

3ピリ41分、FW佐藤航平(イギリス・ベルファスト)がPSを与えられるが、ゴールはならず…(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)
3ピリ41分、FW佐藤航平(イギリス・ベルファスト)がPSを与えられるが、ゴールはならず…(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)

苦しむことはわかっていても、前に進むべきだ。

 五輪予選を前に、今までの歴史から見ても、日本代表はすべてにおいて欠乏していることは明らかだった。海外と試合を組むにしても、移動距離、何より費用の面からみて容易ではない。夏や秋の海外遠征もなく、3次予選の試合を通じて出たデータを、最終戦で生かしていくしかなかった。緊縮財政の日本のアイスホッケーでは、とにかくやれることをやっていくしか方法がない。

 それでも、ハンガリーから風は吹いた。何もいいことがなさそうに見える日本のアイスホッケーに、確かに風は吹いた。

 ランキングで6つ上にいる国を、しかも敵地の圧倒的な声援の中で倒した。先制されたゲームを、3試合とも逆転で制した。

 最終予選は、これまでと相手の格が違うということはわかっている。それは、連盟も、そして選手だって、きっとわかっているだろう。

 僕は、あまり大したことは言えないけど、努力している人に対して「応援しているからね」と言える人間でありたい。訳知り顔で、「どうせ最終予選を突破するのは無理に決まってるだろ。やだね、素人は」という大人のファンだけには、絶対になりたくない。

 ハンガリーから吹いた風がたとえ世間には届いていなくとも、僕は信じている。たとえ苦しむことがわかっていたとしても、それでもアイスホッケーは前に進むべきだ。人間の力を信じることができなくなったら、たぶん生きている価値もない。僕は本当に、そう思う。

守りに重点を置きながら、チャンスと見るや得点を取りにいく。ハンガリーとの力量差を考慮に入れながら、この日は攻守のバランス配分が絶妙だった(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)
守りに重点を置きながら、チャンスと見るや得点を取りにいく。ハンガリーとの力量差を考慮に入れながら、この日は攻守のバランス配分が絶妙だった(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)

▽日本代表ペリー・パーン監督
「このような試合展開では、勝つためのプレーをしなければなりません。われわれはパックをうまく、有利に扱えたと思っています。ロースコアゲームは、日本にとって有利な試合展開になると信じていましたが、理想の展開で運ぶことができ、素晴らしいゴールキーパーの守りとともに、忍耐強いプレーができた。それが、勝利のゴールに結びついたと確信しています」

PPの3ピリ43分、FW中島彰吾(レッドイーグルス北海道)がゴール左からワンタイマーを決めて1-1(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)
PPの3ピリ43分、FW中島彰吾(レッドイーグルス北海道)がゴール左からワンタイマーを決めて1-1(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)

PPの3ピリ43分、FW中島彰吾(レッドイーグルス北海道)がゴール左からワンタイマーを決めて1-1(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)
キャプテンの同点弾を喜ぶPPのユニット。「無精ヒゲを生やした櫻井翔」こと中島彰はいつもにも増して気合が入っていた(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)

キャプテンの同点弾を喜ぶPPのユニット。「無精ヒゲを生やした櫻井翔」こと中島彰はいつもにも増して気合が入っていた(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama) 
同点から2分後の45分、ゴール前の混戦からこぼれ球を押し込んだDFハリデー慈英(レッドイーグルス北海道)。ハリデーも今季のアジアリーグでは無得点だが、派手な場所で得点を挙げた(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)

37本のシュートを1失点に抑えたGK成澤優太(レッドイーグルス北海道)。「五輪予選のMVP」を選ぶとすれば、まぎれもなく彼だっただろう(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)
37本のシュートを1失点に抑えたGK成澤優太(レッドイーグルス北海道)。「五輪予選のMVP」を選ぶとすれば、まぎれもなく彼だっただろう(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)

試合の最終盤、約2分の6人攻撃にも耐えた日本。GK成澤を中心に歓喜の輪ができる(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)
試合の最終盤、約2分の6人攻撃にも耐えた日本。GK成澤を中心に歓喜の輪ができる(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)

日本のファン、そして選手の家族が応援に駆け付けた中、最高の結果を届けた日本のメンバー(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)
日本のファン、そして選手の家族が応援に駆け付けた中、最高の結果を届けた日本のメンバー(ⒸJIHF-PHOTO,Nagayama)

 

山口真一

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