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2024-02-20

全国女子駅伝9区区間賞の川村楓が大阪で初マラソンに挑む

日本選手権10000mに初出場し、31分54秒73の自己新をマーク(写真/黒崎雅久)



入社2年目のハーフマラソンで本人も意外な好結果

 大学3年時から「続けられたら続けたい」と、卒業後のことを考え始めていた。「でも実績がないから、入れてくれる実業団はあるのかな」という思いもあり、その頃から練習に熱が入った。

岩谷産業に決めたのは4年時の5月か6月。「寮の見学に来たときに、廣瀬(永和)監督が『練習はどこのチームに行っても変わらないと思う。自分がどうなりたいと思うかだよ』と言われたことが印象に残りました。その通りだなと思って、ここで頑張ろうと思いました」

同じ頃、廣瀬監督が指導に関わった野口みずき(2004年アテネ五輪金メダリスト)が、岩谷産業のアドバイザーになることが決まった。

ポイント練習のメニューは廣瀬監督が考えるが、ジョグや補強を含めたトレーニング全体を、川村自身が考え始めた。「自分で考えて練習をすることがなかった」ため、自分のスタイルを確立するのに時間がかかった。入社1年目はコロナ禍もあって出場試合数が少なく、自己記録は更新できなかった。

廣瀬監督も、川村がスピード練習主体で成長してきたことは理解してきたが、持久系のメニューを多く行って、どう変化が現れるかを見ていた。だが2年目以降は、「川村の特徴を生かすには、速い動きの練習の方が力を発揮できる」と分かってきた。

2年目の終わりにはハーフマラソンを2本、1時間11分36秒(大阪ハーフマラソン5位)と1時間10分17秒(全日本実業団ハーフマラソン8位)で走った。ハーフマラソンには学生時代にも3回出場したが、1時間15分台が2回と1時間14分06秒だった。実業団で長めの距離に適応し始めたと言っていい。

「1本目の大阪ハーフは冬期練習のつもりで走りました。そこで意外といけると思って実業団ハーフも走って、タイムもついてきてくれました。でも、距離を走るメニューは全然やっていなかったですね。マラソンまで走れるとは、全く思いませんでした」

入社3年目は5000mが15分47秒47まで伸び、クイーンズ駅伝は1区区間10位と、日本のトップレベルが見え始めてきた。そして4年目のシーズン前、23年3月に廣瀬監督と話し合って、1年後の大阪マラソンを目指す決心をした。

「ハーフの記録が私と同じくらいの選手でも、マラソンを走っている選手が多くいます。自分がどのくらいマラソンを走れるのか、知りたいと思って出場を決めました」

好奇心が強く、練習も含め何にでもチャレンジする。マラソン出場の決断には、川村のメンタル的な特徴が表れていた。

初マラソンもスピード練習主体で出場

それでも練習が、マラソンを意識した長い距離のメニューが中心になるようなことはなかった。廣瀬監督は「去年の夏も中距離的な練習をしたことが良かった」と考えている。

「川村は夏に距離を踏むことに抵抗感があります。それで走り込みでなく、スピード強化をしました。それが秋以降の好成績につながりましたね。マラソンまで生かせたらいいのですが」

大阪マラソンも、川村の得意とするスピード主体のトレーニングで臨む。マラソン練習の定番である40km走は行わず、30km走も1回だけで出場する。

以前から女子は、男子ほど長い期間走り込まなくてもいいのではないか、と言われてきた。それに加え厚底シューズの時代になり、「選手によっては40km走を何本もやらなくても、(短い距離の練習で)動きを整えておけば長い距離にまで持っていけるのかもしれない」(廣瀬監督)という仮説を立てている。

川村自身は初マラソンの目標を次のように考えている。

「マラソンに懸けている、というより、走れたらいいな、くらいの気持ちです。目標記録も明確に決めていません。なんとなくですが、2時間30分を切れたらいいかな」

廣瀬監督は「2時間25分台も十分期待できる」と、野口の初マラソン(2時間25分35秒・02年名古屋国際女子)と同レベルのタイムが可能だという。だが過剰な期待は戒めてもいる。

「成功するのか、失敗するのか、という見方はしていません。川村がマラソンでどういう走りをするか、私自身が知りたいのです」

廣瀬監督は川村が、長い距離を走り込んで強くなった野口とは、正反対のタイプであることを目の当りにしてきた。それでも練習中のタイムや練習に取り組む姿勢、メンタル面などで似ている部分も多く感じている。全国都道府県対抗女子駅伝9区で、08年大会に三重県アンカーとして出場した野口は31分53秒(区間賞)だった。2カ月前の東京国際女子マラソンに優勝し、絶好調だった時期である。

前日本記録保持者と同じ指導者の下から、全く異なるタイプの選手が育っている。取材をさせてもらったこちらも、川村のマラソンを見てみたい気持ちが最高潮に達している。

文/寺田辰朗

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