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2024-07-05

【連載 大相撲が好きになる 話の玉手箱】第20回「予兆」その4

平成30年夏場所7日目、大翔丸に押し出された貴景勝が土俵下に落下。千代丸は身をよじってかわした

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やっぱり新型コロナ禍のせいでしょうか。
それとも単なる偶然か。
最近は、まったく先が読めなくなりましたね。
たとえば優勝力士です。
令和2年秋場所、正代が優勝するって、誰が予想しましたか。
その前の照ノ富士も、そうです。
でも、勝負の世界に生きる力士たちの第五感というか、察知能力はたいへんなものです。
多くの力士たちがいち早く変化の兆しを感じ取り、その対処法を講じます。
そうしないと、生き馬の目を抜くこの世界では生き残れないんですね。
そんな兆しや予感にまつわるエピソードです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

嫌な予感が的中

予感、兆しにも、いいものもあれば、嫌なものだってある。平成30(2018)年夏場所7日目、西前頭7枚目の千代丸は西9枚目の北勝富士戦に備えて土俵下の控えに入っていた。間もなくやってくる勝負のときに備えて、逸る心を落ち着かせ、精神や呼吸を整える大事な時間である。千代丸も腕を組み、軽く目を閉じて瞑想のひとときを送っていた。
 
すると、そのときだった。一番前の大翔丸対貴景勝戦で貴景勝が押し出され、すぐ横に勢いよく落下してきたのだ。千代丸が驚いたのなんのって。とっさに身をよじり、なんとか最悪の下敷きこそ免れたものの、もう心を落ち着けるどころではない。
 
なにがなんだか、よく分からないまま、土俵に上がったが、こんな心理状態では勝てという方が無理だ。軍配が返ると、北勝富士にあっという間に押し出された。憮然とした表情で引き揚げてきた千代丸はこう言って天井をにらんだ。

「(貴景勝が落下してきた)あれで嫌な予感がしたんですよ」
 
ズバリ、的中でした。

月刊『相撲』令和2年11月号掲載

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