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2024-07-09

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第25回「言い分」その5

宿願の初優勝を果たし、笑顔で賜盃を抱く日馬富士(平成21年夏場所)

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人の気持ちほど、分かりにくいものはありませんよね。
「なんでこんなことをするの」
と首をひねりたくなる出来事に遭遇したことはありませんか。
でも、それにはそれなりの理由があるもの。
あとで、それが分かり、なるほど、そういうことだったのか、
と合点がいくことがよくあります。
力士たちも、よく予想外の言動をしますが、
それにはそれなりの言い分があってこそ。
そんな言い分にまつわるエピソードです。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

1敗の重み

力士は、番付によって責任や取り巻く状況などがガラリと変わってくる。平成21(2009)年夏場所初日、大関日馬富士は東前頭筆頭の豊真将(現錣山親方)を押し出し、ニコニコ顔で引き揚げてくると力強くこう宣言した。ちなみに、これが大関3場所目で初めての白星発進だった。

「大関になる前は、途中で負けてもまだ上位陣を食って三賞を狙うとか、勝ち星を積み重ねて番付をさらに上げるとか、いろんな楽しみがあった。でも、大関になったら、優勝することしか、楽しみはない。先場所、6日目までに2敗して、1敗の大きさをイヤというほど気づかされた(最終的には10勝5敗)。これからはもっと一番一番を大事にして、頑張らないと」

日馬富士は大関に昇進する直前、8場所中7場所も三賞を受賞している。元三賞の常連ならではの発奮方法だ。この言葉どおり、この場所の日馬富士は初日から12連勝し、なんと千秋楽の白鵬(現宮城野親方)との優勝決定戦も制して初優勝し、

「自分の思った通りの相撲が取れた。本当にうれしい」

と喜びに声を震わせた。

まさに瓢箪から駒だ。横綱になると、1敗の重みは大関の比ではない。新横綱の平成24年九州場所、日馬富士がどんな負けない相撲をみせるか、楽しみだ。

月刊『相撲』平成24年11月号掲載

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