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2024-07-12

【連載 大相撲が好きになる 話の玉手箱】第20回「予兆」その5

平成31年初場所千秋楽、優勝した玉鷲が賜盃を受け取る。この日の朝、第二子が誕生した

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やっぱり新型コロナ禍のせいでしょうか。
それとも単なる偶然か。
最近は、まったく先が読めなくなりましたね。
たとえば優勝力士です。
令和2年秋場所、正代が優勝するって、誰が予想しましたか。
その前の照ノ富士も、そうです。
でも、勝負の世界に生きる力士たちの第五感というか、察知能力はたいへんなものです。
多くの力士たちがいち早く変化の兆しを感じ取り、その対処法を講じます。
そうしないと、生き馬の目を抜くこの世界では生き残れないんですね。
そんな兆しや予感にまつわるエピソードです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

福は福を呼ぶ
 
最後に、極め付きの吉兆を。平成31(2019)年初場所の覇者は西関脇の玉鷲だった。優勝マジックがいよいよ1となった14日目の夜、というよりは、今日勝てば初優勝、という千秋楽の早朝、玉鷲は相撲どころではなかった。
 
まだ東の空も真っ暗だった午前4時、エルデネビルグ夫人が2人目の子供である男の子を出産したのだ。愛妻家の玉鷲は大事な大勝負を控えているにもかかわらず、午前3時まで陣痛に苦しむ夫人に付き添い、いったん帰宅。3時間後の午前6時、息子誕生を知り、再び病院にかけつけた。
 
要するに、ほとんど寝ていなかったのだ。これには夫人も心配して、

「私はだいじょうぶだから、少し寝て」
 
と背中を押すようにして帰宅させた。それからおよそ11時間後、玉鷲は、

「奥さんが頑張ったので、今度は自分の番だ」
 
と自分に言い聞かし、西前頭9枚目の遠藤に頭から当たり、反撃するところを左から鮮やかに突き落とし、待望の初優勝を決めた。この決定的瞬間を館内のテレビで見届けた師匠の片男波親方(元関脇玉春日)は、

「朝、子供が生まれたと聞いて、あっ、これは優勝できるな、と思いました。子供は神さまからのプレゼントですから」
 
と大きくうなずいていた。
 
福は福を呼ぶんですよね。

月刊『相撲』令和2年11月号掲載

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