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2025-03-14

【相撲編集部が選ぶ春場所6日目の一番】異国の土俵で奮闘。幕内で初のウクライナ対決は後輩の安青錦が勝利

幕内では初めての「ウクライナ対決」は、安青錦が押し倒しで先場所のリベンジ。これからも、名勝負を重ねていってもらいたい

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安青錦(押し倒し)獅司

「(同国出身同士の対戦は)全く意識しないです。力士としてみているので」とは、安青錦らしい答えで、まあ確かに本人としてはそうなるだろうと思うが、それでもこれは、歴史的一番だ。

この日、幕内では史上初の、獅司と安青錦のウクライナ出身力士同士の対決が実現。後輩の安青錦が押し倒しで勝利を飾った。
 
外国出身力士と言えば、かつては髙見山が道を開いて初優勝、小錦が初の大関、そして曙が初の横綱となり、武蔵丸も続いた米国のハワイ勢。その後は、旭鷲山、旭天鵬に始まり、朝青龍が横綱に昇進、さらに白鵬、日馬富士、鶴竜と横綱を生んで一時代を築き、さらに照ノ富士から今場所昇進した豊昇龍と横綱が続いているモンゴル勢が相撲史に大きな足跡を残しており、同国出身力士同士の対戦もたくさんある。だが、ことヨーロッパとなると(今後、ロンドン公演やパリ公演が予定されているなど、相撲への理解は進んでいるが)、地理的な遠さもあるのだろう、なかなか日本までやってきて力士になろうという若者は稀少で、同じ国の出身力士が対戦してきた機会は少ない。
 
過去の例としては、元大関琴欧洲と、琴欧洲にスカウトされるような形で日本にやってきた元関脇の碧山が対戦したことがあるブルガリア勢と、元小結の黒海、元大関の栃ノ心、元小結の臥牙丸がいて、3人が互いに対戦したことがあるジョージア勢ぐらいだろう(ロシアは話がややこしそうなので、この際、ちょっと置いておくが……)。
 
今回「ウクライナ対決」を行った28歳の獅司と20歳の安青錦は、先場所はともに十両だったが、揃って大勝ちし、獅司が返り入幕、安青錦が新入幕を果たして、幕内での同国出身力士対決が実現した。
 
ちなみに先場所は12日目に十両で顔が合っており、潜りにくる安青錦を獅司が突き放して押し合いになり、安青錦が再度、右を差して潜ろうとしたところを、懐の深さを生かして左上手に一瞬手をかけた獅司が上手投げから突き落としで勝っている。
 
2人の持ち味は、獅司が懐の深さを生かした突きや投げ、安青錦は上半身のパワーと、頭を上げないしぶとい相撲。それだけに、今場所も先場所と似た展開となった。
 
ただ今場所は、「きょうは負けてもいいから、自分から動こうと思いました」という安青錦が反省を生かした。先場所はただ潜りにいって最終的には上手に手をかけられたが、今場所はまず右のハズ、その後は頭をつける形と、安易に差しにいかずに距離を取り、相手の上手を遠ざけながら、かつ、自分は左上手を取り、頭を上げずに攻めた。そして最後は押し倒し。先場所のリベンジを果たした。先場所と合わせるとこれで1勝1敗。2人ともまだまだ伸びしろたっぷりの力士だけに、これからも幕内で何度も名勝負を重ねてくれることだろう。
 
ただ残念なのは、安青錦は「いい相撲を取って(母国の人に)少しでも喜んでもらえれればいいですね」と言うものの、「母国からの反響は特にないです」というところ(ご両親と相撲以外の話は電話アプリでしているとのこと)。
 
確かに彼らの母国の置かれている状況を思うと、相撲どうこうというどころではない、というのが実情だろう。早く、遠い異国の土俵での、相撲の同国対決を無邪気に楽しめる、そんな状況が来てほしいものだ。

文=藤本泰祐

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