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2025-03-20

【相撲編集部が選ぶ春場所12日目の一番】「ザンバラの新怪物」登場! 新十両の草野が12日目で十両優勝決める

草野は土俵際、逆転の掬い投げを狼雅に決めて全勝を守り、12日目で十両優勝決定。次はあと3勝の全勝Vへと向かう

草野(下手投げ)狼雅

またまた、大変な“ザンバラ髪力士”が、新たに現れた。
 
新十両の初日から白星を積み重ね、8日目にストレート勝ち越し、9日目に大の里、尊富士らと並び、新入幕では15日目制以降最多タイ記録(5人目)の9連勝、10日目に新記録と快調に飛ばしていた草野が、この日も勝って初日から12連勝。早々と十両優勝を決めてしまったのだ。
 
12日目での十両優勝決定は、15日制となって以降、最速タイの記録で3例目。過去には昭和36(1961)年11月場所の内田(のちの大関豊山)、昭和52年春場所の琴乃富士の例があるだけだが、しかもそれを新十両で達成してしまったのだから恐れ入る。
 
この12日目を迎える時点では、全勝が草野ただ一人、3敗に狼雅、英乃海、志摩ノ海、日翔志と4人がいて、草野が勝って、3敗力士が全員負ければ優勝決定(草野と狼雅は直接対決)という、なかなか難しい条件だったが、志摩ノ海、日翔志、英乃海が次々と敗れてアッという間に舞台が整い、“勝てば優勝決定”の形で、幕内経験も十分の狼雅との対戦を迎えることになった。
 
二人は右の相四つだけに、立ってすぐ右四つ、ともに下手廻しを引いて上手は抱える形になった。“胸が合った形では草野やや苦しいか”と思った次の瞬間、草野は左を巻き替えモロ差し。だが逆に狼雅はこの機を逃さず前に出る。草野は相手の引きつけで一瞬腰が入りかけ、土俵際まで寄られて危なかったが、右から掬って体を入れ替えながら、何とか狼雅を投げ捨てた。

「今場所一番緊張しました。立ち合いで張られて、ちょっと苦しい体勢になって、あとは夢中で覚えてない。うれしいです。出来すぎです」と草野。今場所の相撲を見ていると、対戦相手が比較的大きい力士が多かったということもあるのだろう。連日、立ち合いから強く当たることができていて、その圧力を生かしながら、アマチュア時代に鍛えた下から掬って入っていく前さばきのうまさが生きる展開を多く生めているように思う。
 
日大4年時の学生横綱などのタイトルを引っ提げ、昨年5月に幕下60枚目格付け出しで初土俵。そこからの歩みは6勝、5勝、5勝、4勝、4勝で、5場所をかけて今場所が新十両と、意外に地道だが、むしろそこから今場所大爆発したということは、学生時代の貯金だけでなく、入門後の成長曲線があって勝てるようになってきた、ということを示しており、さらに今後に期待が持てる。
 
今場所の結果次第では幕内復帰を狙おうかという狼雅を、右四つ胸を合わせた体勢から破ったことでもわかるとおり、もはや幕内で通用する力をつけているのも間違いなく、早く幕内で見てみたい、という欲求を起こさせる力士だ。
 
現在は十両尻の西14枚目に位置するが、もしも残り3日も白星を並べ、15日制では6人目(過去は栃光、内田、北の冨士、把瑠都、栃ノ心が達成)の全勝優勝を果たすようなら、十両1場所通過の可能性も見えてくる。新十両で全勝∨となれば15日制ではもちろん初めて。さらにさかのぼれば、11日制だった昭和4年春場所に、のちの横綱武蔵山が達成している例がある。

「疲れは残っていない。(全勝は)少しは意識しているけど、一つでも多く勝ちたい」と草野。十両全勝優勝で名前が出た栃光、内田(豊山)、北の冨士(北の富士)、把瑠都、栃ノ心、武蔵山は全員がのち横綱あるいは大関となっている力士。だとすれば、それを達成した場合、草野の将来は……。「ザンバラの新怪物」の、これからの快進撃に期待したい。

文=藤本泰祐

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