「ボールを奪える」ことは、チームにどんなメリットを与えるだろうか? ここでは夏休み集中講座として、ジュニア年代での「ボール奪取」を掘り下げて学んでいく。技術の成熟と戦術の基礎的要素の習得を目指す東京武蔵野シティフットボールクラブU-15を2016年から率い、15年まで指導したジュニア・チームでは世界大会でも実績を残すなどカテゴリーを問わず活躍している戸田智史・監督が解説。その4回目は「ボール奪取」の基本として「自分の背後の感じ方」を紹介する。※5回(各回、前編・後編あり)に分けて掲載
(出典:『サッカークリニック』2015年10月号)
上のメイン写真=ボールを奪いに行くチェルシーのエンゴロ・カンテ(右)。解説の戸田氏は「ボールを奪いに行くときは背後を感じながら行くべき。体の向きは相手に正対するのではなく斜めを向き、足はそろえず、どの方向にもすぐに対応できる体勢をとること」とポイントを語る (C)gettyimages
「夏休み集中講座」の(2)と(3)で、体を当てて相手のボールを奪い取るスキルを身につけ、ピッチの中でボールの位置に応じた立ち位置を考えられるようになったあとは、それをゲームの中でどう使っていくかという段階に入ります。
典型的な形として単純化するため、相手が最後尾で攻撃を始める局面で考えてみましょう。攻守とも3ラインを形成し、相手の最終ラインの選手がボールを持ち、こちらのフォワードがそれに対応します。その局面でボールを奪うスキルや駆け引きをして相手にチャレンジしていいのですが、自分勝手に奪いに行って交わされると途端に相手が数的優位となってしまいます。
そこで選手たちに考えさせるのが「背後を感じること」です。
守備の基本セオリーにチャレンジ・アンド・カバーがありますが、チャレンジする1人は自分勝手に奪いに行くのではなく、「もう1人がどのようにカバーしてくれているのか」を考えながら動くことが大切です。つまり「どう奪うか」というイメージを2人が共有して守備にあたるべきなのです(下の図)。それができれば、自分が抜かれたとしても大きなピンチにならないのはもちろん、そのタイミングをボール奪取のチャンスにすることさえ可能なのです。
こうした守備の連動性については、背後の選手からのコーチングが重要であることは確かですが、前の選手の資質として、コーチングを聞こうとするスタンスも必要です。そういう意味で「背後を感じること」をボール奪取術の基本の1つに含めました。小学校中学年で十分に理解でき、取り組める内容だと思います。
「背後を感じること」の意味を考えてみましょう(下の表)。背後に感じるべきものには何があるでしょうか?
守備側は、オフサイドラインを利用しながら、選手同士の縦横の距離を狭めた3ラインを敷いてブロックを形成しています。それに対して攻撃側は幅と深さをとろうとします。そのせめぎ合いの中で知っておかなければいけないのは「味方のいないスペース」です。とられてはいけない危険なスペースが背後のどこにあるか気づいておくことが重要です(ピッチのすべてを感じるのは難しいので、自分のすぐ後ろのラインまでの状況を把握すればいいでしょう)。次に挙げるのはこの2点です。
相手はどのように進入しようとし、味方はどのように守ろうとしているのかを考えるのです。例えば、背後にいる味方の準備が整っていないときは無闇にチャレンジしてかわされるとピンチになるため、「時間を遅らせよう」と判断すればいいのです。
しかし「簡単には飛び込まない」という守備がメインになると、相手にどんどん進入されてしまい、主導権を握られることになります。そこで、相手に進入される前に、背後にいる味方の準備が整ったことが分かったのであれば素早く奪いに行くアクションを起こすことが必要です。自分たちで主導権を握るためにも心掛けてほしいポイントです。
(取材・構成/長沢潤)
戸田智史(とだ・さとし)/1976年8月19日生まれ、東京都出身。2002年から横河武蔵野フットボールクラブのスクールコーチ、ジュニアユースコーチを歴任し、08年からジュニア監督を務めた。09年に全日本少年サッカー大会で3位に導き、14年にはダノンネーションズカップ世界大会に日本代表として出場し、初優勝をもたらした。16年から名称を変更した東京武蔵野シティフットボールクラブのU-15で監督を務めている
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