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2025-11-23

【相撲編集部が選ぶ九州場所千秋楽の一番】安青錦初優勝! 初土俵から14場所目で栄冠を手にし、大関昇進へ

豊昇龍を引きずり倒し、初優勝と大関昇進を決めた安青錦。これまでにあまり類型のない相撲っぷりと、その若さに、今後への期待も膨らむ

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安青錦(送り投げ)豊昇龍

「(優勝が)あまり信じられなかったので」、本人の耳には「あまり聞こえなかった」というが、その瞬間、会場内は割れんばかりの歓声に包まれた。
 
安青錦が、優勝決定戦で横綱豊昇龍の後ろを取り、「送り投げ」に倒す圧勝。初優勝を決めるとともに、大関昇進も決めた。
 
本割で大関琴櫻、優勝決定戦で豊昇龍と、1日で大関と横綱を連破。しかもどちらも快勝し、大関に昇進してしかるべきという力を見せつけた。
 
千秋楽、豊昇龍と割が組まれていた横綱大の里が左肩の負傷のため、この日になって休場。このことから先に豊昇龍が不戦勝で12勝3敗となることが確定し、取組前に状況が急展開した。
 
きのうの取組が終わった時点では、「まず横綱同士の戦いに勝ち、さらに優勝決定戦と強敵に連勝が要求される横綱より、本割が今場所ようやく勝ち越した琴櫻相手の安青錦のほうが優勝に近い位置にいるのでは」と思われたが、状況は一気に逆転。豊昇龍は安青錦が本割で敗れればそのまま優勝、この日は決定戦だけに備えて集中すればいい、という状況になり、安青錦は本割、決定戦と連勝が要求されることになった。
 
そうなると、自分でも「緊張してしまうところがある」と認めており、実際7月場所で優勝争いをした際には硬さを見せて崩れていた安青錦だけに、一抹の不安もよぎったが、やはり今場所ここまで勝ち抜いてきた自信が、安青錦を変えていた。
 
まず本割の琴櫻戦。突っ張り合いから右を差して下手。左上手をガッチリつかまれ、どうかと思われたが、頭をつけて潜ると、7月場所でも大関相手に決めている、左からの内無双で鮮やかに倒した。
 
そして優勝決定戦。ここまで3度敗れている豊昇龍は、初めて頭で当たってきた。少し突き合い。しかし頭を上げない安青錦に、横綱はすぐに引いてきた。安青錦はサッと左に回って体を寄せ、後ろを取って勝負あり。そのまま送り倒した。
 
かくして、安青錦は初優勝を決めた。初土俵からなんと14場所目。21歳8カ月での初優勝は、史上4位の若さだ。
 
そして同時に、関脇1場所通過での大関昇進も決めた。初土俵から14場所での大関昇進は、年6場所制以降、付け出しデビューの力士を除けば最速だ。負け越しを経験せずに昇進というのも見事。

「師匠が言っていることをしっかりやってきた結果」と安青錦が言えば、師匠の安治川親方(元関脇安美錦)は「よくやった。自分でつかみ取ったもの。本人の強くなりたいという思いだと思う」とコメント。互いに認め合える、この関係があってこその大願成就ともいえるだろう。
 
涼やかな、青い目の大関が誕生した。四股名の「青」には、その目の色と、ウクライナ国旗の色が反映されているという。ウクライナからの大関はもちろん初めてだ。
 
ただ本人は、この歴史的な大関昇進にも浮わついたところは全くなく、「うれしいが、また一つ上の番付があるので、そこを目指していきたい」と、横綱への決意をきっぱりと述べた。
 
体が大きいほうではないので、この先ケガにだけは注意してほしいが、それさえなければ、若い大関なので、自らを伸ばしていく時間はたっぷりある。すでに現在の上位陣で勝てていない相手は大の里と義ノ富士ぐらいなので、近い将来の横綱への期待も十分あると言えるだろう。
 
対大の里対策として、これから体を大きくしていくのか、あるいは今の体型のまま、さらに力と技を磨いていくのかも注目されるが、もし後者の方向で成功した場合は、力士がどんどん大型化する相撲界の流れに一石を投じ、以降の相撲を変えるような、歴史的な存在になる可能性も。期待満載の大関誕生。これは来年も初場所から楽しみだ。

文=藤本泰祐

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