熊谷スポーツ公園陸上競技場(埼玉)で行われた陸上の全日本実業団対抗選手権。男子100m(9月19日)を制したのは、クラブチームで研鑽を積む32歳の草野誓也(ATC)だった。
上写真=レース全般を通して力強い走りで勝ち切った草野。4×100mリレーと合わせて2冠に輝いた
撮影/中野英聡(陸上競技マガジン)
決勝。内側から2人目、第3レーンの草野誓也は、スムーズにスタートを切ると、30~60mの中間走では力強い走りでリードを奪い、レース終盤もスピードを維持。最後は昨年のドーハ世界選手権200m代表、白石黄良々(セレスポ)の追い上げを0秒02差で振り切り、10秒30(+1.2)の記録で5年ぶり2度目の優勝を飾った。
男子100mは出場予定だった有力選手の多くが棄権する情勢だったが、それでも白石や山下潤(ANA)、実業団トップクラスの岩崎浩太郎(ユティック)らとの戦いに「表彰台、あわよくば優勝をと思って臨みました。準決勝のスタートが遅れ(計測機器の不備のため、決勝との感覚が短くなり)不安もあったのですが、勝ち切ることができてよかったです」と会心のレースを振り返った。
草野は1988年1月生まれの32歳。順天堂大学院2年時に日本学生選手権(インカレ)で3位に入るなどの活躍を見せ、卒業後も指導、競技の両面において陸上競技を探求し続けてきた。
2年前、そして今年2月には渡米し、男子100mの世界記録史に名を残すカール・ルイス、リロイ・バレル(共にアメリカ)らを育て上げたトム・テレツコーチの下で指導を受け、自身のステップアップに大きな影響を与えてきた。昨年は大学院2年時(2011年)に樹立した10秒33の自己ベストに並ぶ走りを見せ、今シーズンは8月10日の順大記録会で10秒31の自己ベストを更新。続く8月26日のAthlete Night Games in FUKUIではその記録を10秒28まで縮めた。
「前回(2年前)のアメリカ合宿は、走りの“いろは”を教えてもらい、その後、帰国して自分に落とし込んでいったときに、理想とする動きに確実に向かうことができました。ただ、しばらくすると、何かが足りないと感じるようにもなりました。そこで今年2月はテレツコーチに2週間、マンツーマンでの指導をお願いして、そこでいただいた個人的なアドバイスがより大きな成長につながったと思います。具体的には、自分の場合、15m先を見て走るポジションが自分にとって理想的な姿勢だとアドバイスをもらいました」
ちなみに所属するATC(アクセルトラッククラブ)は草野自身も発足に携わったクラブチームで、今季で9年目を迎える。掲げるテーマは「生涯に渡り、挑戦するチーム」。それぞれの目標は違えど、そうした意識を共有する仲間たちと切磋琢磨することで、年齢に関係なく成長できる道を切り開いている。
今回の全日本実業団では草野の優勝に合わせて、草野が2走を務めた男子4×100mリレー、4×400mリレーとリレー2種目を制し、初優勝を飾った。
「どちらかというと、自己満に近い世界に入っている中で、指導者としての視点を広げる意味でも(アメリカ)合宿を行っていたが、それが自分自身の成長にもつながって、楽しくなってきている」と草野。次のターゲットは日本選手権となる。
「これまでやってきたことが、こうした競争の場でも生きた。あとは上位に行くためには10秒1、10秒0を向かっていかなければいけないので、アメリカで学んだことを継続して、調整していきたいです」
成長を続ける32歳のスプリンターの、次なる挑戦に注目したい。
文/牧野 豊(陸上競技マガジン)
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