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2020-10-09

日本の育成年代でも弊害なく取り組める「ゲームモデル」を25歳のJFL監督が紹介:後編

JFLの奈良クラブで采配を振るう25歳の林舞輝監督(列の右端)

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在籍している選手の力を最大限に引き出せるモデルづくり



――奈良クラブのゲームモデルも選手ありきでつくったのでしょうか?

林 そうですね。まずは、ウチのクラブが獲得できる範囲の中で最高水準となる実力を持つ選手たちを補強することにしました。残留してくれた選手たちと加入してくれた選手たちとを合わせた集団の中で、最適と思えるモデルを組み立てていった感じです。

――ゲームモデルに合わせて選手を補強したわけではないのですね。

林 奈良クラブはビッグクラブではないので、それだと逆に限界があります。例えば、私が「空中戦重視だ! どんどん蹴っていくぞ」というゲームモデルをつくって、それに合わせて補強を進めたときにリオネル・メッシから電話がかかってきて、「奈良でやりたい」と言われたらどうしますか?

――お断りするしかありません(笑)。

林 あるいはゲームモデルを白紙に戻すかです。メッシの例は極端ですが、ヨーロッパのクラブでそうやって失敗しているパターンは結構多いんです。これは、育成年代のチームでも基本的には同じだと思います。

――いまにして思うと、鹿児島実業高校の松澤隆司先生(前監督、故人)はそのあたりがうまかったと思います。鹿児島実業は蹴って走るイメージが強いのですが、遠藤保仁選手の代は彼を活かし、松井大輔選手の代ではテクニカルな要素を増やしました。しかし、日本では、どうしてもゲームモデルありきになってしまうかもしれません。

林 サイド攻撃を徹底して重視するゲームモデルをどれほど緻密につくっても、サイドアタッカーの補強に失敗したら、絵に描いた餅になります。

――冒頭で触れた、ゲームモデルは「勝つための方法でなくてはならない」という話と合いません。日本のチームがゲームモデルを導入する場合の注意点を教えてください。

林 日本では「ゲームモデルが正義になる」ことが怖いです。ゲームモデルを本にまとめるような試みがありますが、私は日本ではやりません。例えば、ポジティブトランジションで奪ったら即座に前にボールをつけるという原則をつくったとします。でも、1-0で勝っているが、退場者が出ていて残り時間が5分という状況でそれをやったら、「お前、ふざけるな!」となるでしょう。

 そこまで極端な話なら理解できるでしょうが、実際にはもう少し曖昧な場合があります。戦況もそうですし、味方と相手で個人能力差が生じている局面もあります。でも、日本で紙に書いたゲームモデルがあると、それが「聖書」になってしまう恐れがあるのです。「そこはこうだろ」と指摘しても、「いや、俺はゲームモデルに沿ってプレーしたから!」と反論するようなことになりかねません。

――「マニュアル通りにやったのだから、失敗しても自分の責任ではない」という、責任回避の手段やメンタリティーになりかねないわけですね。

林 そういったワナにハマる危険性は確実にあると思います。

――しかし、それは「勝つためにゲームモデルがある」という部分と矛盾します。

林 目的と手段がすり替わってしまうのは、日本ではありがちだと改めて感じています。勝つためにゲームモデルを用意したはずが、ゲームモデルのためにプレーするようになってしまうのです。

――意識していないと、そうなりそうです。

林 あるJクラブで講習会をやらせていただいたときに、基準のつくり方の話になりました。守備のときにボールとは逆サイドのディフェンダーにどこまで絞らせればいいかと聞かれ、「ペナルティーアークの横まで絞る」という基準例を出しました。すると、「私たちのクラブのアカデミーでそれを言ったら、そこに穴があきますね」と言われました(笑)。

――ペナルティーアークの横まで行っておけばOKということになると、そこまで絞るのが目的化してしまうわけですね。

林 そういうことです。私が以前、少年団の指導をしていたときにもよくあった話です。日本は言われたことを忠実に守ろうとする子供が多いので、具体的に言語化してしまうと、本当に「それだけ」になる傾向が強いのです。イングランドの子供の場合はそこまで忠実に守ってくれないので、逆に細かく強調しないといけません。

取材・構成/川端暁彦

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