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2024-03-13

【相撲編集部が選ぶ春場所4日目の一番】照ノ富士、明生に敗れ2敗。優勝争いは本命不在の大混戦に⁉

照ノ富士は明生にうまく取られて早くも2敗目。優勝争いは本命不在で、まったく予想がつかない状況に……

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明生(寄り切り)照ノ富士

新たな「照ノ富士キラー」の誕生、と言っていいかもしれない。
 
明生が、照ノ富士に2つ目の黒星をつける金星を挙げた。明生は照ノ富士が14勝1敗で優勝した昨年5月場所にも唯一の黒星をつけ、殊勲賞を獲得しているが、これでこの一年、照ノ富士に2戦2勝だ。
 
昨年5月場所は、先手、先手で動き、出し投げで崩しての勝利だったが、この日はモロ差し。引っ張り込まれそうになりながらも、正面から寄り切った。
 
形は違えど、昨年5月場所と共通していたのは、休まず動き続けたことだ。
 
この日も、明生の持ち味がいかんなく発揮された相撲だった。まず立ち合い。低く、早く立って、横綱に当たり勝った。ちょっとはじき合う形になったが、当たり勝っている分、2度目のぶつかり合いも明生のほうが低く、照ノ富士はやや上体が立った形になった。左を固めて照ノ富士の右差しを阻止すると、その直後にサッと下から左差し。先に入った右と合わせてモロ差しになった。
 
両側から抱えて極めにかかる照ノ富士。横綱に極められてしまっては、モロ差しの有利さはたちまち消えてしまうが、この時点ですでに相手の上体を反らすのに成功していたことで、明生は横に振られることもなく、下から下から攻め続けることができた。そのまま向正面に寄り切り。

「踏み込んだ……のしか覚えてないです。立ち合いに当たって、足を前に運ぶことだけを考えていた。止まらないようにと思って前に出ました。止まると力が強いので」と明生。まさに思った通りの、会心の一番と言ってよかった。
 
かくして照ノ富士は2敗目。横綱・大関陣の中では2番手グループに下がった。敗れた2番は錦木と明生にそれぞれ非常にうまく取られたという印象で、状態を確認しながら取っていた先場所より、前半戦の相撲内容はむしろ悪くないようにも思うが、この時点で2敗していることもまた事実。やや立ち合いが高いようなきらいはあるので、このあたりを修正していけるかどうかが後半戦、そして優勝争いへのカギになるか。
 
さてしかし、「本命」が一歩後退し、では優勝争いは横綱・大関陣の中で一歩前に出た豊昇龍、琴ノ若が俄然有利かと言えば、そこまでの手応えはないような気もする(カド番の貴景勝は、優勝をうんぬんするのはもうちょっと星に余裕が出てきてからか)。豊昇龍は立ち合いの踏み込みは悪くないが、そのあとにあまり“どっしり感”がなく、動きの良さでしのいで勝っているようにも見える。まあ、それが豊昇龍の相撲だと言えばそうなのだが……。そして琴ノ若も、それが琴ノ若の相撲だと言えばまあそうなのだが、まだ立ち合いから“受けてさばく”といった内容が続いているように見え、どちらも「優勝して当然」という力強さはまだ感じられない。
 
一方、この日で3人に絞られた関脇以下の全勝組は相変わらず内容がいい。阿炎はこの日も引く気配を全く見せずに若元春との全勝対決を圧勝。大の里も翠富士に何もさせずに押し出した。きのうに続いて、小兵力士に対しても立ち合い迷いなくぶつかっていく思い切りがたくましい。尊富士も、ベテラン妙義龍に先に引く形を作らせるうまさと圧力は、新入幕とは思えない。
 
過去に優勝の実績のある阿炎などはかなり面白い存在と言えるが、ただ豊昇龍や琴ノ若とはまだ対戦していないので、それらの大関陣からすれば、まだまだ自力で逆転可能。照ノ富士ともまだ当たっていないので、阿炎は、この先「走る可能性もあるが、走る保証はまだない」というところだろう。未知の魅力の大の里、尊富士も、どこまで走れるか楽しみなのは間違いないが、まだ「可能性あり、保証なし」ではあるだろう。
 
ここにきて、優勝争いは俄然「本命不在」の様相を呈してきた。群雄割拠の戦国場所を抜け出すのは、番付上位の実力者か、あるいは若手の有望株か。いやはや何とも、予測不能の場所になってきた。

文=藤本泰祐

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