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2019-12-29

【箱根駅伝】東洋大・定方/父、兄の系譜を継ぐ謙虚な主役候補

多くの兄弟ランナーを擁してきた東洋大の歴史のなかでも、初の親子&兄弟ランナー一家となった定方駿。今季、東洋大の中心選手としての働きは誰もが認めるところ。最初で最後の箱根でどんな走りを見せてくれるのか。

写真上=出雲、全日本で頼もしい走りでチームを支えた定方
撮影/中野英聡(陸上競技マガジン)

 6年ぶりの王座奪還を目指す東洋大には、初めての箱根駅伝に強い思いを持って臨む4年生がいる。定方駿だ。父の次男さん、6歳上の兄・俊樹(現・MHPS)も東洋大で箱根駅伝に出場している。

 東洋大は酒井俊幸監督の就任以降だけでも、山本憲二(現・マツダ)、信二、修二(現・旭化成)、双子の富岡巧、司と設楽啓太(現・日立物流)、悠太(現・Honda)、服部勇馬(現・トヨタ自動車)、弾馬(現・トーエネック)など、兄弟ランナーが多いのが特徴だが、定方はチーム初の親子&兄弟ランナーだ。

 次男さんは大学2~4年時の1985~87年に箱根駅伝に出場。実業団のSUMCO TECHXIVで監督を務めた後には、長崎県内の中学でコーチを務め、東京五輪出場が期待される廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)などを指導した。俊樹は大学1年で出雲駅伝に出場、3年時の2013年箱根駅伝では5区を務めた。

兄・俊樹は第89回大会の5区に出走。現在はMHPSで競技を継続している

 高校時代に5000m14分11秒86で、都道府県駅伝1区8位の実績があった俊樹に対し、駿は14分35秒22で、全国区の実績はなかった。それでも大学入学後は着実に自己記録を伸ばし、2年時には箱根のエントリーメンバーに入った。だが、本番を走ることはできず、3年時はエントリーにも入れなかった。

 ただ、その後は3月の日本学生ハーフで1時間03分50秒の自己新、4年生になると5月の関東インカレ・ハーフマラソンで初出場ながら6位に入賞した。夏にはチームで最も走り込み、秋には5000mと10000mで自己記録を更新。4年目にして三大駅伝デビューを果たし、出雲駅伝で6区3位、全日本大学駅伝で7区2位と主要区間で結果を残した。

 特に、全日本で気迫のこもった眼差しで前を追う姿には、相澤晃主将(4年)も「エース格と呼べるようになったし、東洋大の“顔”になってきた」と心を動かされた。地道に努力を重ねてきた駿は今大会、往路での勝負を希望する。

 俊樹は4年時の箱根を走ることができず、往路は5区の大平台で設楽啓太に、復路では10区15㎞地点で同じ九州出身の盟友・大津顕杜(現・トヨタ自動車九州)に、それぞれ給水ボトルを渡す係だった。往路では、前年に自身が5区で強風に苦戦した経験から、早い時間からコース上で風の状況を見ていた。また、翌日に大津に給水した際には必死で、ずっと並走しながら声を掛けてしまい、先導の白バイから注意を受けたほど。その後は急いで大手町へ向かい、大津のゴールを涙で迎えた。

 兄弟そろって誠実な人柄で、誰からも慕われている。駿は「最後に相澤を優勝させたいという思いが強いです」と、自身が表立つコメントはせず、エースを活かす走りをする覚悟だが、主役になる力は十分に備わっている。

 川棚高、東洋大と兄の背中を追ってきたが、卒業後は別の実業団チーム(マツダ)へ進む。父の初出場から35年、定方家最後の箱根駅伝で有終の美を飾ることができるか。

さだかた・しゅん◎1997年6月30日生まれ、長崎県出身。桜が原中→川棚高(長崎)。170cm、54kg。自己ベストは10000m29分27秒94(大4)、ハーフマラソン1時間03分50(大3)

文/石井安里

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