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2018-09-26

【System of Arthur Lydiard vol.4】キロ3分など、エリートランナーたちがハイスピードで走りながら談笑できる理由

有酸素能力の向上がミソ

「一気に乳酸(水素イオン)が増えるスピード」は昨今、よくいわれているLT(またはAT)スピード(=酸素摂取水準)です。一般的に、このLTよりゆっくりのスピードが有酸素運動、LTを超えると無酸素運動、となります。

走るスピードが速くなると、乳酸値があるポイントで一気に増加する。そこを一般的には「LTスピード」や「最高有酸素スピード」と呼ぶ。またこのポイントは、最大心拍数とほぼ同じになる。

 このように酸素が不十分の場合、体はその分をごまかして、酸素なしで燃料を引き出そうとします。この場合、グルコース分子1個から、ATPはわずか2個しか作られません。そして、その副産物として水素分子が放出されることによって、体内のpH(酸性・アルカリ性の度合いを示す値で、「7」が中性)が下がってきます。我々の体は、pH7.4でわずかにアルカリ性です。ところが、酸素供給能力を超えるレベルで運動をし続けると、水素イオンの発生により、体が長時間酸性の状態にさらされることになります。

 人体は酸性状態を嫌います。酸性状態に陥ると、筋収縮が困難になります。それは例えば、400mを全力疾走していて、最後の100mで脚が動かなくなる状態です。

 それに加えて、酸性状態が続くとミトコンドリアの崩壊、細胞壁の崩壊、免疫力の低下など、それまでじっくりと築き上げてきた「体力」を減退させ、さらに故障や病気の原因にまで発展しかねません。 

 それでも、レースで頑張って速く走ろうと思うなら、この無酸素状態に慣れる練習をする必要もあります。また、有酸素能力が高ければ高いほど、高いレベルでの「スピード練習」をこなすことが可能となります。

有酸素トレーニングを積むことによって、LTスピード(乳酸が一気に増え始めるポイント)を引き上げることができる。つまり、それまではあまり速くないスピードで無酸素状態になっていた(①)のが、有酸素トレーニングの繰り返しによって、より速いスピードでも有酸素状態を保てるようになる(②=乳酸の急増のタイミングが遅れる)。

 さて、ここが最も重要なポイントなのですが、正しいトレーニングを積んで、個人の最大酸素摂取能力、つまり「有酸素能力」を高めることによって、LTスピードがどんどん速くなっていきます。

 つまり、有酸素能力が高まると、有酸素スピードがどんどん速くなっていくのです。エリートランナーたちが、キロ3分を切るようなスピードで走りながら、お互いに談笑できる理由もそこにあります。トップランナーたちの有酸素能力は、それほど高いということです。 

アーサー・リディアード
1917年ニュージーランド生まれ。2004年12月にアメリカでのランニングクリニック中に急逝。50年代中頃、「リディアード方式」と呼ばれる独自のトレーニング方法を確立した。その方法で指導した選手が、60年ローマ五輪と64年東京五輪で大活躍。心臓病のリハビリに走ることを導入した、ジョギングの生みの親でもある。

著者/橋爪伸也(はしづめ・のぶや)
三重県津市出身。1980年からアーサー・リディアードに師事。日立陸上部の初代コーチを経て、バルセロナ五輪銅メダリストのロレイン・モラーと「リディアード・ファウンデーション」を設立。2004年以降はリディアード法トレーニングの普及に努めている。現在は米国ミネソタ州在住。

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